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再び・鷹取光輝02

 悪い奴じゃない。春陽は。  それは分かってる。  でも、身体にとっては、甚だ悪影響だった。  春陽と知り合ってから、確実に発情期がひどくなっている。  今がたまたまそういう時期なのかもしれない。思いこみかもしれない。でも意図的に避けていると、やっぱり、症状は落ち着く。  踏み込みすぎなんだよ、あいつ……  こっちの準備が整う前にこじあけて、踏み込んできて。ほんとにあいつ、何か変な菌でも発しているんじゃないんだろうか。 「あーっ、ったく、もう……っ」  思わず声が出てしまっていた。  枕に突っ伏して抑え込む。初めは指でいじっていたけど、指がふやけるし腕がつかれるし物足りないしで、早々に諦めた。今はバイブに穴を埋めてもらっている。一定のリズムで震え続けるそれ。ずるずると抜けそうになると押し込み、抜けそうになると押し込みを繰り返す。ただの作業。全然物足りないけど、ないよりはマシかな、くらいの。色気もへったくれもない。満たされた、と、思う感覚は、一瞬のうちに消えてしまう。硬いバイブでさえこの愛液は溶かしてしまうんじゃないか。酸か劇薬か。自分の身体なのに。笑ってしまう。 「あーもう、最悪だ、もう。早く終わってくれよ、早く……」  そのとき、ふと、 『つがいになってくんない?』  何故か唐突に、春陽の声が脳裏に甦った。  きゅう、と、それまでとは違う動きで、穴がひくついたのが分かった。何だ。何だこれ。 『俺、鷹取のこと、好きかもしんない』 『好きだよ』 『好き』  次第に頭の中が、春陽の声で埋めつくされていく。 「ふっ……う、う……」  耳から、肩から、胸から、脇腹から、声に撫でられていく。あられもない声が抑えられなかった。気持ちいい……何だこれ……さっきまでと違う感覚……やばい、こんなの知ってしまったら、本当にやばい、やば……  ひとつ、春陽の言葉を思い出すたび、頭の中の靄が濃くなる。駄目だ、これに覆いつくされたら、自分は本当に駄目になってしまう。  反射的にスマホに手を伸ばしていた。何か、そこに縋れるものがあるような気がして。気づいたらボイスメモをタップしていた。 『でも……大丈夫ですよ、きっと大丈夫』  ノイズ混じりの春陽の声。自分が大丈夫、と、言われているように感じてしまう。 『つらかったですよね、本当……』  頭を優しく撫でられているような、甘い感覚が全身に広がる。気持ちいい……駄目……駄目だ……駄目、駄目だろ、こんな、こんなのおかずにしたら絶対駄目だろ。そこまで堕ちたくない。でも……でも気持ちよすぎて……  身体はふわふわと浮き上がりそう。でも罪悪感にまみれた心は反対に鉛のように沈んでいく。ああ、一体どうしたら……  ブルブルブル!  突然、手の中のスマホが震え始めた。  戒めのようでもあり、救いのようでもあった。  着信画面に切り替わった画面。  春陽。  震える指で、緑の受話器のマークを押す。 「何だよ」 『へっ? あー……』  自分からかけてきたくせに、光輝がすぐに出るとは思っていなかったんだろう。マヌケな声。 『ゼミ、休んでたから……どうしたのかな、って……。今日、俺ら発表の番だったじゃん』 「あ……あー……悪ぃ、そうだったよな、迷惑かけた……」 『ああうんそれはいいの。俺ひとりで発表してもよかったんだけど、せっかく鷹取がまとめてくれた分だし、って思って次回に回してもらったから』 「そう、悪い……」 『って、本当は俺ひとりで発表すんのが不安だったからなんだけど』 「あーまあーそうだろうな」

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