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再び・鷹取光輝02

『そうだろうな、って……』 「だってパワポのスライドショー出すのすら覚束ないじゃんお前……まあいいや、次回な、分かった。有り難う」 『……具合、悪いのか?』 「んー……まあ……」 『大丈夫か?』  分かってほしい。  ああ何で分かってくれないんだこいつ。分かってほしい。言いたい。いつもよりスマホが重く感じる。自分の荒い息が、もう伝わってしまっているんじゃないだろうか。やばい。また、後ろがどろどろしてきた。意識すればするほど、欲しいと思ってしまう。こんなちゃちいおもちゃなんかじゃとても足りない。自分の熱を上回るくらいの熱が欲しい。埋めてほしい。アルファが欲しい。欲しい、欲しい、欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。お前アルファなんだろ、なあ……!  心の中は、頭の中は、嵐が吹き荒れている。めちゃくちゃにひっくり返っている。けれどその十分の一も言葉にならない。 「最悪」 『えっ?』 「最悪だよ、体調……だるいし……何も、考えられねえ……」 『大丈夫か?』  だから大丈夫じゃねえんだって! 『風邪か?』  一度息を大きく吸い、それを吐き出す勢いで言った。 「……期だから」  でも春陽には聞こえなかったらしい。『えっ?』と問い返される。くそっ、二回も言わせやがって。 「発情期だから」  あらためて声に出すと、なまなましさが際立ったように感じられた。切れ目なく喋っていた春陽が、声を失っている。  ああやっぱりな、こうなるから言いたくなかった。でも言ってしまったらもう、一を言うのも十を言うのも同じだ。 「発情期なんだよ。知ってるだろ。身体が疼いて疼いてどうしようもねーの。ケツから変な液漏れてくるし、ちんこずっと勃起しっぱなしだし」  どうしてだろう。必要以上に赤裸々に言うのを止められなかった。『だ……』とか、『そ……』とか、次に何が続くのか分からない一音だけが繰り返されている。また『大丈夫?』とか言おうものなら今度こそぶっ飛ばしてやる。電話越しだけど、ぶっ飛ばしてやれそうだった。  春陽は、押し黙っている。こんなに長い沈黙は初めてかもしれなかった。しかたないから光輝から沈黙を埋める。 「ちょ、っと前までは……こんなんじゃなかったんだよ。月によって差はあったけどさ、薬で何とかなってたし、お前がつがいになりたいとかふざけたこと言ってくるまではさ、俺、誰にもオメガだってバレたことなかったんだよ。それなのに何なんだよお前。お前のせいだからな。お前と同じゼミになってから明らかにおかしくなったんだよ、今までずっと言わなかったけど!」 『ご、めん……』 「お前本当、何か変な菌でも持ってんじゃねーの。あー……菌っつーよりアレルギーかな。花粉だな、花粉。お前自身が花粉だわ」 『あーなるほど。何かそのたとえはすっごいよく分かる。はは……』 「笑いごとじゃねえっつーの!」 『ごめん……』  感情がぐちゃぐちゃだった。怒りたいのか、泣きたいのか、声を聞きたいのか聞きたくないのか分からない。  相変わらず息は上がっている。でも今なら、声を荒げたせいだと言い訳することができる。  どれくらい経っただろう。ようやく落ち着いてきたタイミングで、ぼそり、と春陽の呟きが鼓膜を打った。 『本当、ごめんな』  上手い言葉が思い浮かばず、沈黙を返す。

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