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「ちょ、みぃ、ま、待て!」
周は慌てて本を放り出すと、つぐみの頬を両手で挟んだ。
「どうして?」
眼前で、不服そうな瞳が周を見上げる。
「その……、なんだ。あ、まだ十八は大人じゃないぞ。酒もたばこもダメだし……」
「もう充分大人だよ! 選挙だって行けるんだよ? 周さん、去年の誕生日は結局、キスしかさせてくれなかったし……。俺、もう待てないよ!」
つぐみは唇を尖らせ、キッと周を睨み付けた。
「そんなこと言ったってダメだ。俺はおまえの保護者でもあるんだから」
「違う! 保護者なんかじゃない! 周さんは俺の恋人だもんっ」
つぐみは周の手からふて腐れた顔を背けた。
「あ、じゃあさ……」
しかし、何か思いついたのか、すぐさま顔を戻す。その瞳はキラキラと不敵に輝いていた。
「今年も、キスでいいよ? でも、大人のやつね?」
「大人の?」
「そう、触れるだけじゃダメだから」
つぐみは赤い舌先をちろりと出した。
「……ど、どこでそんなの覚えてきたんだっ」
戸惑う周を余所に、つぐみは機嫌よさそうにまた寝転がり、周の膝に頭を載せる。
「約束だからね!」
***
「大人のキス……」
周は風呂場で深い溜息を吐いていた。
風呂椅子に腰かけ、目の前の鏡の曇りを手のひらで払い、映った自分の顔を眺める。
眼鏡を掛けていないせいでぼんやりとしか見えないが、しばらく散髪に行っていないほったらかしの黒髪が、自身でも野暮ったいと思った。
『周さんは俺の恋人だもんっ』
つぐみの言葉を思い返し、溜息を繰り返す。
学生時代の周は身なりには無頓着だったが、成績も良く、上背があり、それなりに整った顔立ちだったため、本人の意思とは無関係にキャンパス内では目立つ存在だった。
それから十数年。
周は胴回りを撫でた。
いくら食べても太る体質ではないので腹は出ていないが、さすがに年齢を感じる。
しかも子供の頃から悪かった視力は、最近、近くの物まで見えにくくなっていた。
「老眼……?」
恐ろしい響きを口にし、思わず項垂れた。
やっぱり、ただの四十前のおじさんだ。
『周さんとえっちがしたい』
それに……、本当に、みぃに一線を越えさせていいのか……。
「周さん、一緒に入ってもいい?」
突然、引き戸の向こうからつぐみの声がして、現実に引き戻された。
「えっ? お、おいっ」
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