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周が慌てふためく声を上げている間に、止める間もなく戸が開き、つぐみが風呂場に顔を出す。 「こらっ、みぃ!」 「もう入ってきちゃったもん」 腰回りにタオルを巻いたつぐみは悪戯っ子のような笑みを滲ませ、周の背後に立った。 「俺が背中流してやるから」 「い、いや! いいっ!」 周は慌ててタオルを太腿の上に掛ける。 「やだ! 流してやる!」 つぐみはそう言い切ると、自身がいつも使っているアヒルの形をした黄色いスポンジにボディーソープを含ませ、勝手に周の背中に滑らせた。 「一緒に入るの、久しぶりだね」 背中からつぐみの弾んだ声が聞こえてくる。 「……そうだな」 周は顔に諦めにも似た笑みを浮かべた。 撫でるようにスポンジが上下されると、周はくすぐったさに思わず身を捩る。 「周さんの背中、相変わらず広くてかっこいいね」 「そんなことないさ……」 返事をしつつ、鏡に映り込んでいるつぐみの裸に気づき、咄嗟に視線を落とした。 周は俯いて、洗面器に汲んだお湯でばしゃばしゃと顔を洗う。 つぐみが中学に上がった頃、風呂は別々に入ろうと提案したのは周だった。 周が止めない限り、つぐみはいつまでも一緒に入ろうとしたからだった。 「じゃ、流すね」 背中の隅々までスポンジを滑らせたあと、つぐみは洗面器でお湯を掛けた。 「ありがと、みぃ」 「ううん」 返事をしてすぐに、つぐみがポチャリと湯船に入る音がした。 「お返しに俺も背中流してやるよ」 周が振り返ると、肩までしっかりと浸かったつぐみの顔はすでに赤かった。 「俺はいい」 「なんだよ、遠慮するな」 「いいからっ」 怒ったように言い、つぐみはぷいと顔を背けた。 「どうしたんだ? 顔赤いぞ? もう湯あたりしたのか」 周が心配になって窺うように腰を屈めると、つぐみはおずおずと視線を戻してきた。 「だって……ちゃったんだもん」 「え?」 語尾が小さくて聞こえなかった。つぐみの口元は湯に浸かりそうだ。 「だから! 勃っちゃったんだもん!」 聞き返した周の瞳をつぐみは恨みがましそうに見上げる。

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