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「周さんの裸見て、どうにもならない方がおかしいよ……」
そして、言い訳のように言い募った。
「そ、そうか……?」
周は困惑気味に首筋を掻いた。
こんなおじさんの身体のどこに欲情するのか……。
「だったら、俺は先に出てるから、その……、ゆっくり抜いてこい」
「ま、待って、周さん!」
立ち上がり、背を向けた周に、つぐみの声が追いかけてくる。
「なんだ?」
「や、振り向かないで」
周は慌てて引き戸に向き直った。
「俺が抜く間、そこに居て?」
「え……」
「いいでしょ? えっちさせてくれないなら、周さんの背中見ながら抜くくらい!」
切羽詰まった声音に、周はタオルを首にかけ、小さく息を吐く。
「……わかった」
周の返答に、パシャリとつぐみが湯船から立ち上がる水音がした。
「周さんはそこに立ってるだけでいいから……、んっ」
自身に触れたのか、つぐみの溜息のような微かな声が浴室にこだました。
「周さん……」
そして、我慢できないかのように、その口から周の名が零れる。
もちろん、声変わりはしているが、つぐみの声は低すぎない透明感のあるものだった。
「んっ、周さん……、周さん……あ、」
弾んだ息と明らかに粘着質な水音が背後から聞こえてきた。
「周さん、好き……、大好き……っ」
漏れ出るつぐみの想いに、周の心臓がギュッと掴まれる。無意識に拳を握り締めた。
「ん、周さん、ありがとう……」
喘ぎの合間に、そんな言葉が聞こえた。
「急にどうした」
背を向けたまま問う。
「お、俺を、十年間も見捨てないでくれて、ありがとう……」
微かに震える声に、周は振り返った。
「……!」
腕を伸ばし、大きく瞳を見開いたつぐみの汗ばんだ肩を抱き寄せる。
「周さん?」
「馬鹿みぃ。そんなことでわざわざ礼を言うな」
やるせなさと苛立ちとを含んだ声で言い聞かせる。
目頭がじわりと熱を持った。
一段低くなった湯船の中に立つつぐみの頭は、周の肩ほどまでしか届かない。
「うん……」
つぐみは周の肩に頬を摺り寄せ、小さく頷いた。
その様子が子供に戻ってしまったかのようで、周の胸にツキンとした痛みを連れてくる。
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