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周と抹茶とつぐみの名

在宅でライター業を営む周は座卓の上でノートパソコンを開き、仕事を進めていた。 正面には縁側があり、その先には落ち葉の散る庭が見える。 晴れた空には秋の雲が広がっていた。 そろそろ掃き集めないとな……。 手を休めてそんなことを考えていると、「はあ~」と周の右手側から深い溜息が聞こえてきた。 斜向かいに座っているつぐみが、開かれた参考書に右腕を置き、その上に顎を載せていた。眉は不機嫌に歪められている。 この縁側に面した一階の和室が周の私室兼仕事場で、二階の洋室がつぐみの部屋だった。 しかしつぐみは大抵周の部屋に入り浸っている。 「どうした、みぃ」 「明日は日曜なのに、模試なんてつまんない」 「まあ、もうすぐ受験だからな。ひとつひとつの模試が受験生にとっては大切な時期だろ?」 周が言うと、つぐみはぼんやりと参考書を見つめながら、再び溜息を吐いた。 「やっと、高校卒業できるのに……。俺、大学なんか行きたくない……」 その左手は明らかに数学の問いへの答えではないものを、ふらふらとノートに書き綴っている。 「まだそんなこと言ってるのか。おまえの成績ならどこへだって入れるだろう? せっかくの頭脳を無駄にすんな……、あ」 周は小さく声を上げ、顰めた顔をつぐみに向ける。 「もしかして、また学費のこととか悩んでるのか? おまえがそんな心配する必要なんてないんだからな! 何度も言うが、この家だって、管理する代わりにじいさんにタダ同然で住まわせてもらってるんだし。それにじいさんの物なら、みぃにだって住む権利はあるん……」 「そんなんじゃない!」 周の言葉を遮るように、つぐみが抗議の視線を上げた。 「俺、大学行くより、二十四時間、周さんと一緒に居たいんだ!」 追い縋るような瞳に、周の言葉が詰まる。 ペンシルを握り締めた手元では「あまね、あまね」と自身の名がいくつも書き連ねてあった。 その文字を見ると、周の胸の奥はキュッと切なく締め付けられる。

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