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「あれ? 駄菓子屋さん、無くなっちゃったんだ」
つぐみが道路脇の更地の前で立ち止まって、残念そうに呟いた。
家屋が立ち並ぶ裏路地の一角に、そこだけ、エアポケットのように何もない空間ができていた。
「ああ、みぃはあまりこっちには来ないもんな。先週、取り壊されたみたいだよ」
周がよく利用するスーパーは、つぐみの通う高校とは反対方向にある。
「みぃが小さい頃、ここで初めてかき氷を食べたんだよな」
無くなってしまった駄菓子屋には、小さなつぐみを連れて、何度か来たことがあった。
日本家屋の路面側だけを店にしていた駄菓子屋は、奥が家族の住まいになっているようだった。
テレビの音声が店先まで届く中、腰の曲がった老婆がいつも柔和な笑みを湛えて店番をしていた。
かき氷は夏の間だけ、その老婆が機械を回して作ってくれたのだ。
周が軒先に吊るされていたかき氷の旗を懐かしく思い返していると、隣のつぐみがしょんぼりとした声を出した。
「また食べたかったな、抹茶味のかき氷」
「ぷっ」
周はつぐみの言葉に噴き出した。
「みぃはイチゴ味しか食べれないじゃないか」
笑いながらそう言うと、つぐみは心外だと言わんばかりに頬を膨らませて周に向き直る。
「きっと、今なら食べられるもん!」
初めてつぐみとここへ来て、かき氷を注文した時だった。
周が抹茶味のかき氷を注文すると、『みぃも、あまねさんとおんなじの!』とつぐみが言い出した。
『イチゴ味もメロン味もあるんだぞ?』
周は子供のつぐみに他の味を勧めたのだが、頑固に首を横に振るばかりだった。
だがやはりつぐみには苦かったらしく、しかも添えられた餡も苦手だったようで、ほとんど食べることができず、結局周はイチゴ味を注文し直してやったのだ。
「どうしてそんな無理するんだよ、くくっ」
周はその時のつぐみの泣き出しそうな顔を思い出し、笑いを堪えきれないでいると、つぐみが憤慨した様子で先を歩き出す。
「おい、待てよ、みぃ……!」
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