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久遠の祖父母は農業を営んでいて、余った野菜をこうして持ってきてくれることがある。 「ご家族の皆さんによろしく伝えておいてくれ」 「いやいや、休耕田でじいちゃんが趣味程度に作っただけのものなんで」 気さくにそう言ってくれるが、久遠の家は古くから続く地主の家柄で、その所有する農地は広大なものだ。 近隣を歩いていると、あちこちの田畑が久遠家のものだと気づくことになる。 「野菜なんか要らないのに。どうせ持ってくるならお肉にしてよ」 「うちは肉牛まで飼ってねぇよ!」 好き嫌いの多いつぐみの減らず口に久遠は突っ込みを入れながら、縁側を背にしてこたつに入った。 「ちょ、布団あんま持ち上げるなよ! 寒いだろ! ぬくもったらすぐ帰れよな!」 「なんだよ、この寒空の中わざわざ野菜持ってきた友人に、その言い草は!」 周はふたりのやり取りにやれやれと苦笑いしながら、野菜の入ったビニール袋を持って、隣の台所へと向かった。 和室からはつぐみと久遠の賑やかな会話が聞こえてくる。 周の知る限り、人見知りの激しいつぐみに、友人と呼べる存在はこの久遠だけだった。 つぐみが久遠にはぞんざいな口を利くのも、心を許している証だろう。 「あ、佐和田さんが前に言ってあったから、大根は葉っぱ付けたままっすよ?」 周が三人分の湯呑みを盆に載せて戻ってくると、久遠が顔を上げた。 「ああ、覚えててくれてありがとう。久遠君ちの大根の葉で漬物を作ると、つぐみがご飯をお代わりしてくれるんだよ」 「え、マジっすか!?」 久遠が驚きの声を上げると同時、つぐみが『これ以上余計なことを言うな』という目つきでこちらを睨みつける。 周はひょいと肩を竦めた。 「高階はほんと、小食っすからねぇ。細っこいし。……あ、あざっす」 久遠は困り顔で周が差し出した茶を受け取る。 「学食でもいつも食べ残すから、俺が残りを食ってやってるんすよ?」 「そうなのか、つぐみが世話をかけてすまないね」 周が苦笑混じりに謝罪すると、つぐみはふて腐れた顔でえんじ色のこたつ布団を肩まで引き上げた。 「いえいえ、……あ!」 久遠は腕時計を見て小さく声を上げる。 「んじゃ、あったまらせてもらったし、そろそろ帰って勉強しないと。俺は誰かさんと違って頭悪いんで」 つぐみの顔を横目でちらりと見てにやりと笑い、こたつから立ち上がる。 「何言ってるんだ、君だって充分優秀じゃないか」 周も久遠を玄関まで見送るため立ち上がった。 つぐみと久遠が通う高校は県内でも有数の進学校だ。 ちなみに、周の母校でもある。 「いや、高階は俺とはデキが違うんで。お茶、ごちそうさまでした。じゃ、高階、また明日な」 「うん」 つぐみはこたつから出ようとはせず、視線だけで久遠を見送った。

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