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「ねぇねぇ、周さん」
和室に戻ってきて、縁側を正面にした定位置に周が腰を下ろすと、つぐみは少し不機嫌そうな、それでいて哀しそうな目を向けてくる。
「周さんは、何とも思わないの?」
「ん? 何がだ?」
周が問い返すと、つぐみは座卓の上に残された久遠の湯呑みに視線を這わせたあと、おずおずと口を開いた。
「その……、久遠が……、俺の残した学食、食べてるってこと」
「えっ……」
「俺、もし、周さんの残したやつを他の誰かが食べたら……、すごいやだ!」
つぐみはそう言って、キッと眼差しをきつくした顔を上げた。
「…………」
周は一瞬、口ごもり、つぐみの視線から顔を背ける。
「そ、そんな心配は無用だ。俺はみぃとは違って、食事を残したりはしないからな」
そしてそわそわと落ち着かない様子で再びこたつから立ち上がった。
「……それに、明日からは久遠君に迷惑を掛けないよう、昼飯は残さず食べること! いいな?」
「はぁい」
腰に手を当て、叱るように言うと、不満げな声が返ってくる。
「それよりみぃは早く顔洗って着替えてこい」
「えーやだ、寒いもん」
「そうか……、だったら仕方ないな。庭の落ち葉が集まったから、前に久遠君からもらったさつまいもで焼き芋でも作ろうかと思ったんだが、俺ひとりでやるか」
周は腕を組んで、わざとらしく溜息を吐いた。
するとつぐみの瞳がみるみる輝いていく。
「わ、やるやる! ちょっと待ってて! すぐ着替えてくるから!」
弾んだ声を上げ、やっとこたつから抜け出す。
そして慌てて和室から出て行くと、二階への階段を駆け上っていった。
その足音を聞きながら、周はいつの間にか強張っていた肩の力を抜いた。
縁側の窓を開け、敷石の上に置いているサンダルを引っかけると、庭へと降り立つ。
途端に冷えた風が周の首筋に吹き付けた。枯れ葉がカサリカサリと音を立てて舞い散っている。
庭の隅では山茶花が冬空の下で濃いピンク色の花を綻ばせ始めていた。
周は傍に寄って、香りを嗅いだ。
その微かに甘い澄んだ芳香が周の心を幾分、素直にさせる。
「……なんとも思わないわけ、ないじゃないか」
そして、つぐみには聞こえないよう小さな声で呟くと、自嘲の笑みを浮かべる。
「いい年して、ヤキモチ、か……」
周は山茶花にだけ、本心をそっと打ち明けていた。
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