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周と手紙とつぐみの部屋
「みぃ、寝るなら自分の部屋に行って寝なさい」
風呂から上がってきた周は、和室のこたつにうつ伏せて眠っているつぐみの肩を揺り動かした。
柱の時計はすでに深夜の一時を過ぎている。
「ん……」
寝ぼけた声を上げながらも、つぐみが目を覚ます気配はない。
つぐみの着ているフリース素材の赤いチェック柄のパジャマは、周が着ている青色のものと色違いだった。
その腕の下には赤本やノートが広げられたままになっている。
国立大学の二次試験が迫っていた。
「ほら、みぃ、風邪ひいたら元も子もないだろ」
「うん……」
つぐみはなんとか目蓋を持ち上げると、ぼんやりとした眼差しのまま周を見上げた。
「周さん、二階行くから、手、引っ張って起こして?」
手を伸ばして甘えてくるつぐみに、周は小さく呆れた息を吐く。
寝起きのつぐみは、いつも以上に甘えたになるのだ。
周は濡れた髪を拭いていたタオルを首にかけると、つぐみの伸ばされた手を掴んで引っ張った。
つぐみはよろよろとこたつから立ち上がったが、周の手をしっかりと握ったまま離さない。
「みぃ?」
「……このまま、二階まで連れてってくれる?」
上目遣いのつぐみが周の様子を窺うように小首を傾げた。
「わかったよ」
周は苦笑まじりにそう返事をし、つぐみの手を握り返す。
周が頷かないと、つぐみは手を離さないとわかっていた。
つぐみは眦に照れた笑みを見せている。
その手を繋いだまま、周は和室を出て、二階への階段をのぼり始めた。
***
「着いたぞ」
つぐみの部屋の扉を開け、手を伸ばし、壁の電灯のスイッチを押して振り返る。
「……うん」
つぐみは少し残念そうに周の手を離すと、窓際にあるベッドに潜り込んだ。
その様子を見守りながら、周は机から椅子を引っ張り出してきて、つぐみの頭の側で腰かけた。
「みぃが眠るまで、ここに居るから」
「え、ほんと?」
途端につぐみの顔が綻ぶ。
「ああ」
周が微笑むと、つぐみは輝かせた目でこちらを見上げてきた。
「こら、逆に目を覚ましてどうする。今日はもう、ゆっくり体を休めるんだ。明日は俺が起きたときに起こしてやるから」
「ええっ、やだ! 周さん起きるの早いんだもん!」
つぐみがぷうっと頬を膨らませる。
現在、学校は自由登校なので、つぐみの起床は遅かった。
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