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7‐3
『どうして、みぃにうそをつくのですか?
どうして、みぃをひとりぼっちにするのですか?
どうして、みぃにあいにきてくれないのですか?』
そこには、つぐみのどうしようもない落胆や混乱、憤りが籠められた問いが、書き連ねてあった。
「…………」
周は困惑のうちに読み進めていく。
『みぃはあなたにあいたいんです。
だって、みぃはあなたがだいすきだからです』
周の胸が、鋭い痛みに締め付けられた。
『あえなくても、とおくにいても、どうか、あなたがしあわせでいますように』
それは、自身を捨てた母親へ宛てた手紙だった。
仮に投函しても、返事など来ないことはつぐみにもわかっていたはずだ。
いや、どこに送っていいのかさえ、わからなかったはずだ。
つぐみは書いた後でやっぱり捨てようと思い、くちゃくちゃに丸めたのだろう。
しかし思い悩んだ末、小さな手で丁寧に皺を伸ばし、行く当てのない想いとともにこの絵本に挟んだのか。
ここに挟んでおけば、いつかこの想いが届くと信じたかったのか。
「……っ」
周の目頭は堪えきれないほどに熱くなった。視界が歪む。
周にさえ伝えられなかったつぐみの想いが、そこにはあった。
……俺にだからこそ、伝えられなかったのかもしれない……。この絵本を読んで、みぃはやはり母親のことを思い出していたんだ……。
胸の奥に切なさと、無力感とが押し寄せてくる。
『わかってる。俺に対するつぐみの想いが、どんな種類のものであれ』
野崎に言っておきながら、その言葉は周自身に深く突き刺さっていた。
「みぃが本当に求めているものは……俺じゃない」
つぐみが求めるもの、それは――。
『みぃはあなたにあいたいんです。だって、みぃはあなたがだいすきだからです』
目の前の文面が周に真実を突きつける。
子供の頃から、つぐみの世界には、周しか居なかった。
人は、誰かに愛されたいと願う。
だが、それと同じくらい、いや、それ以上に、誰かを愛したいと希うのだ。
……みぃは愛してもいい存在が欲しかったんだ。だから、行き場のなかったみぃの愛は……。
紙片を持つ周の指先が震えた。
「みぃは、俺を愛するしか、なかったんだ……」
苦々しい声音で、先ほど呑み込んだはずの恐れていた言葉が、口端から漏れた。
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