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周はつぐみの手紙を挟み直し、絵本を閉じた。
いつも一緒の布団で、つぐみを抱き締めて寝ていた周だったが、いつの頃からか、眠れなくなった。
『あまねさん、あまねさん……っ!』
周だけを呼ぶ甘えた声を、周だけに縋る指先を、周だけを求める瞳を、誰にも渡したくなくなった自分に、気付いたのだ。
「みぃ、すまない……」
苦しげに絞り出された掠れた声は、唸る風の音に掻き消される。
一階には、周の和室の他に、空いている部屋もあった。
だが周は、自分の部屋から一番遠いこの二階の洋室をつぐみに与えた。
自身の中にある汚れた独占欲から、つぐみを遠ざけたかった。
そんなことでしか、自分を抑える術がなかった。
「俺は、おまえが求めるものを与えてやれない。おまえの親になんか、なれないんだ……」
周は絵本を元の場所に置くと、ベッドで眠り続けるつぐみの傍に立った。
長い睫毛の先が呼吸のたびに微かに震えている。
「だって俺は……」
苦渋に満ちた声音で囁きながら、つぐみの頭の側に手を突いた。
僅かにベッドが傾ぐ。
周は身を屈め、温かな吐息を漏らすつぐみの唇に、自身の唇を重ねた。
「みぃを、愛してしまったから……」
周の想いは、つぐみの唇の表面で、淡雪のように瞬時に溶けた。
愛しさに、胸が張り裂けそうになる。
窓枠のカタカタと鳴る音と愛と絶望が、辺りに満ちていた。
周は身体を起こすと、変わらず眠り続けるつぐみの寝顔を切ない眼差しで眺める。
そして、布団を肩まで引き上げてやると、傍を離れて扉へと向かった。
「……また、明日」
周は小さな声をかけ、電気を点けたまま、つぐみの部屋をあとにした。
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