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ただ、つぐみが通うことになる学科は、画家など実際の創り手になるためのものではなく、芸術理論等を学び、キュレーターやアートコーディネーターなどを育てる学科だった。
なんで突然、芸術学部なんだ? まあ、高階は元々、何を考えてるかわからない奴だったしな。
久遠は頭の後ろに両腕をやり、指を組んで支えると、心内で呟く。
そういえば……。
ふと、思い出した。
小学校の昼休み、つぐみはいつも図書館で過ごしていた。
そのつぐみがよく読んでいたのは、あらゆる画家の画集だった。
真剣な眼差しで、一枚一枚のページを丁寧に捲り、熱心に絵画を見つめていた。
ああ、そうだ、高階は子供の頃から絵が好きだった……。だけど、あれは……。
久遠は先を歩くつぐみの後ろ姿を見ながら、あることに気付く。
あの目は、絵を観ていたというより、画集の中から何かを、探していた……?
つぐみがふいに立ち止まり、久遠は慌てて自身の中の疑問を掻き消した。
なぜか、詮索してはいけないことのように感じたのだ。
つぐみは左手に立ち並んだ民家の庭先の一角をじっと見つめている。
追いついた久遠がその背中から視線の先を覗き込むと、しょぼくれた雑種犬が吠えることもなく、こちらを見上げていた。
「……触ってくれば?」
久遠が進言したが、つぐみは「別にいい」と素っ気なく言って、ぷいと前を向く。そしてまた歩き始めた。
ほんとは触りたくてうずうずしてるくせに。
気持ちを押し隠すかのようにパーカーのポケットに手を突っ込んだつぐみを見ながら、久遠は呆れまじりの苦笑をする。
つぐみとは長い付き合いになるので、今ではその感情の機微に気づくことができるが、引っ越してきたばかりの小学生の頃は戸惑うことも多かった。
当時のつぐみは誰にも心を開かず、喋ることさえ稀だったからだ。
コミュニケーションが苦手、というよりは、他人にまったく関心が無いと言ったほうが正しかったのかもしれない。
久遠も戸惑ったように、意思表示をしない、何を考えているかわからないつぐみの態度は周囲に誤解を生んだ。
転校生であり、ハーフで目立つ容姿だったこともあり、そんなつぐみを快く思わないクラスメイトが現れ、すぐに嫌がらせが始まったのだ。
久遠はつぐみに対して何の感情も持ち合わせてはいなかったが、いじめをするような輩が大嫌いだった。
――じいちゃんだったらどうするか。
久遠の判断基準はいつでもそこだった。
久遠の祖父は大らかで頼りがいがあり、行政区長などの役職にも就いていて、地域の人々に慕われていた。
加えて正義感が強く、どんな相手にも物怖じしない。
その元には公私にわたって、いつも多くの人が訪れていた。
祖父は久遠の憧れだった。
じいちゃんみたいな男になりたい。
久遠は、つぐみの傍にいることに決めた。
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