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「おう、もちろん!」
立てた親指を突き出し、大きく頷く。
久遠は野球少年だったが、進学校ゆえに高校の野球部は弱かった。
三年の地方大会では、一回戦で私立の強豪校と当たるという不運に見舞われ、あっという間に高校最後の夏は終わった。
「ふーん」
つぐみは自分で聞いておきながらも、興味なさげな返事をする。
「高階は? 今まで部活とかやってないだろ。大学では何かサークルにでも入ってみたら……」
「入らない」
久遠の言葉をバッサリと遮り、つぐみはまた背を向けた。
「周さんとの時間が減るだろ」
「はぁ……」
その理由は、またもや久遠の想定の範囲内だったが、改めて呆れた息を吐く。
「あのなぁ、高階。周さん、周さんって、佐和田さんは俺たちより二十以上も年上なんだぞ? 先に年食って死んじまうんだぞ? そんな頼りっきりでどうすんだよ!?」
久遠の苛立ちの込められた問いかけに、くるりと振り返ったつぐみは、後ろ歩きをしながら、思いもよらぬ穏やかな笑みを見せた。
「俺も死ぬ」
その言葉は宇宙の摂理のように、あまりにも当然と、そしてあまりにも決然とその口から発せられた。
「だって、周さんのいない世界なんて、生きる意味ないもの」
そう告げたつぐみの声音には、何の躊躇も含まれてはおらず、浮かべている笑みは透き通るほどに無垢なものだった。
「……っ」
久遠は直射日光でも見てしまったかのように、慌ててつぐみの顔から視線を逸らした。
つぐみが周に寄せる信頼は、家族に対するそれとは違うということに、久遠は疾うに気づいている。
一度もその口から語られることのない、引っ越してくる前のつぐみの過去。
その胸に抱えている……闇。
それをほんの少しだけ、久遠が垣間見たのは、一緒に登下校するようになってしばらく経ったある日のことだった。
***
給食の時間、久遠は突然、先生から廊下に呼び出された。
――じいちゃんが田んぼで倒れて病院に運ばれたらしい。
先生の言葉を要約すると、そういう意味だった。
どんな言葉で告げられたかは思い出せない。
途端に心臓が激しく波打ち、背中を冷たい汗が流れ落ちた。
自身を落ち着かせるように半ズボンの裾をギュッと握り締める。
迎えに来た母親の車ですぐに病院に駆け付けた。
『じいちゃんっ!』
久遠は集中治療室の窓ガラスに張り付き、真っ白なベッドに横たわる祖父の姿を一心に見つめ、大きな声で呼びかけた。
しかし、祖父には意識がなかった。
家に帰ってからも、一時たりとも座っておくことさえできなかった。
両親は入院準備のため、久遠を一旦家に置くと、また病院へと戻って行った。
家にひとりきりになった。
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