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*** 「みぃ、まだ寝てるのか!? みぃ?」 つぐみの部屋の前で、周は扉越しに呼びかける。もうすぐ正午だというのに、つぐみが起きてくる様子はなかった。階段の下から何度呼びかけても返事もなく、たまりかねて起こしに来たのだ。 来週にはもう、大学の入学式だというのに……。 「開けるぞ? いい加減に……」 扉を開けながら言い募ろうとした言葉が、ベッドのつぐみを一目見て、喉奥に呑み込まれる。布団に沈み込むように横たわったつぐみは、明らかに顔色が悪かった。呼吸も荒く、肩を小さく上下させている。 「どうした、具合悪いのか?」 険しい顔つきでベッドに近づいた周に、つぐみが僅かに目蓋を開け、弱々しい声を出した。 「……ごめん、周さん……」 「どうして謝るんだ」 訊ねながら額に手を当てると、高い体温が伝わってきた。周の心を不安の雲が覆い始める。 「だって、昨日、周さん……コート、貸してくれたのに……」 申し訳なさそうに周の顔を仰ぎ見て、つぐみがしょんぼりとした声で答える。 部屋の床には、着替えようとしてみたのか、はちみつ色のニットカーディガンや長袖のTシャツ、オリーブ色のパンツが散らかっていた。 昨夜までは何ともないように見えた。 いや、晩飯の量がいつもより少なかったか……? くそっ。 周は思考を巡らせ、自分自身に内心毒づいてしまう。 つぐみはいつも何だかんだと文句を言うくせに、本当に辛いとき、苦しいときにはそれを口にしない。だから周は注意深く見守っているつもりだった。 「何言ってるんだ……、俺のほうこそ、気づいてやれなくてすまない。風邪かな……」 額から手を離し、掛け布団を肩まで引っ張り上げてやりながら、周は小さく嘆息する。 「どこか痛いところは?」 「少し、頭……痛い」 「病院行くか?」 周の問いかけに、つぐみは眉間に皺を寄せてゆっくりと首を横に振った。 「寝てたら……だいじょぶ」 「だったら、俺の部屋に行こう」 そう提案すると、褐色の瞳に僅かに光が差し込んだように見えた。がしかし、すぐにそれを抑え込むように目を伏せる。 「ううん、ここで寝てる」 「えっ、下まで歩けないほど辛いのか?」 つぐみの返答に、周は思わず驚いた声を上げてしまった。 つぐみにこの部屋を与え、別々に寝ようと提案したのは周だ。だが、つぐみが体調を崩したときのみ、周の和室で寝ることを許可していた。看病がしやすいから、とつぐみには伝えていたが、本心はというと、病身のつぐみが心配で堪らず、少しでも傍に置いておきたかったからだ。 つぐみ自身も『病気になると周さんと同じ部屋で寝れる』と、不謹慎にもそれを楽しみにしている節があった。

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