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瞳から涙をボロボロと溢れさせながら叫ぶように言って起き上がり、周の手にあるシロップの瓶を取り上げようとする。
「何言ってるんだ、やめろ、みぃ!」
周は瓶を自身の背後に置くと、その身体を抱き留めた。だが熱があるとは思えないほどの力で暴れ出す。
「みぃっ!」
その足は周の腹を蹴り、右手は髪を鷲掴み、左手は肩を引っ掻く。
周の元に引き取られてから、つぐみはずっと大人しかった。周の言うことをよく聞き、反抗することなどなかった。
「落ち着け、みぃ!」
「みぃは……! ダメなの……っ。生きてたらダメなのっ」
初めて、つぐみが自身の感情を吐露した瞬間だった。
「そんなわけないだろっ!」
抵抗するつぐみの身体を抱き締めたまま、周が大声で叫ぶ。ビクリと体を震わせ、つぐみの動きが止まった。
「……いいの?」
腕を緩めると、つぐみは恐る恐る周の顔を覗き込んできた。その目は、堕ちた奈落から空を見上げて、細い細い糸を探すかのように大きく揺れ動く。
「みぃは、生きてても、いいの……?」
「……っ」
こんなにも幼いつぐみに人生の根源的な問いを口にさせた鳥子に、周は激しい怒りを覚えた。いや、憎しみと言っても過言ではない。
「……みぃ……っ!」
つぐみの深い心の傷を思うと、周の胸は張り裂けそうだった。目の裏が熱くなり、視界がぼやける。すぐさま手の甲で滲み出た涙を拭うと、周はつぐみの小さな肩を掴んでしっかりと視線を合わせた。そして、周の想いを言い聞かせる。
「俺は……みぃが……」
話すうちに、堪えきれなくなった涙が頬を伝った。けれどもう、周はその涙を拭わなかった。つぐみもまた、両目にいっぱいの涙を溜めて一心に周の言葉に耳を傾ける。
つぐみに周の想いが伝わったかはわからない。けれど翌朝、熱の引いたつぐみは、稲荷を全部食べてくれた。
***
「どうして、今さら……っ」
周は鳥子にぶつけた疑問を再び吐き出す。その後鳥子が大きな賞を獲り、活動の拠点をパリに移したことを知っていた。もう会うことはないはずだった。
『鳥子さんは俺にみぃをあげると言ったじゃないですか! どうして、どうして今さら……』
路地で相対した鳥子は、周の動揺や抵抗をまるで意に介さず、平然とした表情で左手に握っていた雑誌を周に向かって広げて見せた。
『個展の準備で久々に日本に戻って来たときに、これを見たの』
それは、野崎に頼まれたつぐみがモデルとして巻頭の写真ページを飾った芸術誌だった。
『何年も離れているのに、一目でみぃだとわかったわ』
鳥子は微笑んだ。
『親子ですものね』
その言葉に周は薄ら寒さを感じた。無意識に拳を握り締める。
『一見、清廉な蕾のような少年なのに、この眼差しの奥にある、抗いがたいほどの妖艶さ……。正直、ぞっとしたわ』
鳥子は感嘆の溜息を吐きながら雑誌を捲り、つぐみの写真に視線を這わせた。
『これを見て決めたの。みぃを私の絵のモデルにしようって』
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