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強い想いが奔流となって周の中で渦を巻く。思わず瞳を揺らすと、つぐみの勉強机が視界に入った。
途端に刺すような痛みが胸に走る。
『みぃはあなたにあいたいんです。だって、みぃはあなたがだいすきだからです』
絵本の中にひっそりと挟まれた、つぐみの想い。
そうだ……、俺は知ってしまったんだ……。
つぐみが本当に求めるものを――。
『みぃ? 欲しいのなら、周君にあげるわ』
鳥子の言動は決して許される次元のものではない。しかし、つぐみにとっては、愛し、求め続けるただひとりの母親なのだ。
それに、みぃは芸術学部を選んだ……。
密かに母親と同じ道へと進路を定めていたつぐみに、周は内心衝撃を受けていた。事前の相談は一切なかった。
『みぃは私のミューズになるわ。いえ、世界中の画家たちにインスピレーションを与える唯一無二の存在になれるのよ!』
鳥子の身勝手な目論見だが、つぐみの人を惹きつける天性の魅力と、今の鳥子の画家としての影響力を持ってすれば、可能に違いない。つぐみの気質を思えば、日本に居るより海外での生活のほうが合っているのかもしれないと周でさえ感じてしまう。
『みぃは今、風邪をひいて寝込んでいるので、鳥子さんに会わせることはできません』
俺の口を衝いて出た言葉は、みぃを守るため、なんかじゃなかった……。
周の独占欲が、独断が、つぐみの求めるものを、さらには世界で活躍する機会を踏み躙ることになるのだ。
ベッドの端に置いていた手のひらがシーツを握り締める。
身勝手は、どっちだ……。
「周さん……?」
黙り込んでしまった周の言葉の先を促すように、つぐみが僅かに首を傾げた。
「みぃ……、俺は……、みぃのことが……」
胸の奥が引きちぎられるかのように痛んだ。喉元にまで込み上げた言葉を堰き止めるように、一度唇を噛み締める。そして、再び口を開いた。
「……大切なんだ。俺は、とても、とても、みぃのことが、大切なんだ……」
狂おしいほどの愛おしさを抑え込んで、小さな子供に言い聞かせるかのように、周はゆっくりと想いを繰り返した。
これが、つぐみに伝えられる周のすべてだった。
「……周さん……」
周の言葉を噛み締めるようにその名を囁きながら、つぐみが指先を伸ばした。
「眼鏡……、してないんだね……」
その指先が周の目元にそっと触れた。こそばゆいような温かな感触に周は思わず目を瞑る。その指先が目尻から頬、そして唇へと滑り落ちていった。
「ねぇ、キス……してもいい?」
中指の腹で周の下唇を撫でながら、密やかな声でつぐみが訊いた。そっと目蓋を開けると、微かに揺れるつぐみの瞳が窺うようにこちらを見上げている。
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