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愛してくれてありがとう 3
その後、俺は、驚いているリュウとサチを残し、鷹人を無理やり連れ出し、彼の家に向った。 鷹人にキスをせがみ、そして、抱き合いたいと言った。 何も考えたくない…とにかく、鷹人に抱いて欲しかった。俺の愛しているのは、妻でも英明でもない、「鷹人」お前なんだ――。
俺の身勝手な告白に、鷹人も、俺のことを愛してると伝えてくれた。でも、愛しているからこそ、 俺の子供を不幸にしたくないと辛そうに話してくれた。鷹人の優しさは、充分に分かっている。だけど、鷹人に触れたくて、抱いて欲しいと言った。これで、最後だからって。
抱き合った後、これからも今までと同じように、友人でいてくれると言ってくれたから、鷹人の言葉を信じた。
だけど、鷹人にとって、俺の気持ちは重荷でしか無かったのだ。
鷹人が俺の前から去ろうとした日、俺は進藤君から鷹人の予定を聞きだし、空港まで追いかけて、 鷹人を探した。これだけ沢山の人の中から、見つけられるだろうか? でも、どうしても会いたい。 会えなくなるなんて、考えたくない。
「どうして来るんだよ」
やっとのことで見つけた鷹人は、俺を見て眉をひそめた。
「顔が見たかった。鷹人、どうして何も言ってくれなかった?」
わかってる。子供が生まれるのに、家庭を大事にしない俺を持て余しているって…。
「あなたの事が嫌になったから…」
「嘘だ」
鷹人が俺の前に現れたから、俺の事「大好き」って「愛してる」って言ってくれたから。
だから俺、離れたくない・・・
困っている鷹人を益々困らせる。どうしたら、俺の傍にいてくれるんだろう? 妻の事も、子供の事も、仕事の事も考えられない――。
「あなたの存在が重すぎるから」
「分かってる…俺が鷹人を苦しめたんだろ?」
鷹人を見つめてそう言った。俺の視線を避けていた鷹人が、今度は俺の事をジッと見つめていた。
やっぱり嘘だ。お前の瞳には、俺しか写ってない…そうだろ?
鷹人の唇に、無理やりキスをする。回りの事なんて構っていられなかった。鷹人に触れたかった。俺の前から居なくならないで。俺、もう、自分の気持ちを誤魔化して生きていけない。
「シュンさん、あなたは有名人なんだよ。こんな事しちゃだめじゃないか!」
俺の腕を振り解いて、鷹人がそう言った。俺の事、心配してくれてるんだよね?
「平気だよ。撮影だとか思われるさ」
理由はどうとでも付けてやる。プロモーションビデオだって、写真集だって何だっていい。
戸惑いを隠せない表情で俺を見つめている鷹人の唇を、もう一度塞いだ。
「ダメだよ、お願いだからもうやめてください」
鷹人の瞳から涙が一筋こぼれた。
「嫌いなんて嘘なんだろ? 行くな。行かないでほしい」
他人に初めて執着した。英明との事があって以来、出会いも別れも相手任せだった。付き合ったり結婚もしたけれど、そこには「相手を愛する」という気持ちが無かった。
だけど、鷹人に出会い、求められ、初めて自分の意志を持った恋をしてしまった。今の俺の状況では、そんな恋は許されないのに…。
「シュン、あなたはも父親になるんだから。子供に悲しい思いをさせないで」
俺の一番聞きたく無い言葉を鷹人が言った。俺の子供に、自分のような辛い思いをさせたくないって鷹人は言ってた。分かっているけれど――。
辛そうな顔をして、鷹人が俺を見つめていた。それから、俺の腕を解くと、無理やり笑顔を向け た。
「愛してくれて、ありがとう。それから……ごめんなさい」
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