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愛してくれてありがとう 4
その後、リュウの運転する車で、リュウのマンションに行った。
リュウは、俺のあまりの取り乱し様に、空港まで付いて来てくれて、それから、鷹人が去った後、その場に座り込んでしまった俺を抱き起こし、何も言わずに、俺を車まで連れて行ってくれた。
リュウには感謝してるし、申し訳ないって思ってる。でも、自分でもどうして良いのか分からない。気持ちを押さえ込んでいるうちに、自分の感情を上手くコントロール出来なくなって しまったようだった。
「シュン…何も聞かないけどさ、とにかく、早く抜け出せよ…」
リュウの部屋のソファーで、膝を抱えて座っている俺に、リュウが言った。
「…」
もう、何もいらない――。
「あいつ、言ってただろ? お前はもうすぐ父親になるんだからって」
「子供なんていらない。鷹人がいればいいんだ…」
膝に顔を埋めて呟いた。そうだよ、鷹人が居ない今、俺は何も欲しくない。何もしたくない。
「ったく、アホかお前は! ウジウジとさぁ。 目ぇ覚ませっての!」
怒鳴りつけるようなその声に驚いて顔を上げると、リュウが突然俺の胸倉を掴み、殴りかかろう とした。
「殴れば? もう、俺、どうでもいい」
顔を背けて投げやりに言うと、チッと舌打ちが聞こえた後、俺はリュウに思いっきり殴られて、ソファーから転げ落ちた。
「痛たいじゃないか!」
殴れば…と言ったものの、あまりの痛さに腹がたち、起き上がると、リュウの顔を拳骨で殴ろうとした。だけど、急にリュウに抱きすくめられ、中途半端に持ち上げた拳が、自分の頬に当たった。
「シュン、しっかりしろよ。こんな事で、自分を見失ってどうするんだよ」
「こんな事って…リュウはそう言うけど、鷹人は俺にとっては大切な人だったんだ! あいつが居ないなんて、俺、どうしたら良いのか分からない。初めてだったんだ『愛してる』って気持ちが繋がった相手って」
俺がそう言ったら、リュウが複雑な表情をしながら呟いた。
「何だよ…歌詞で散々『愛』だの『恋』だの書いてんのに――」
リュウの手が優しく俺の髪を撫ぜた。傷ついた心がホンノ少し救われたようだった。
いつもは厳しいリュウが、こんなに温かく感じたのは初めてかもしれない。
「――お前だって、憧れや想像とかで詩書いたりすることあるだろ?」
「ま、殆どそんな感じだけどさ」
「だろ?」
「とにかくシュン……よく聞けよ。当たり前の事なんだけどさ、お前にはお前の生活がある、あいつにはあいつの生活があるんだよ」
「…」
優しく髪を撫ぜながら、リュウが言葉を続けた。
「なぁ、あいつ、学生なんだろ?」
「うん、デザインの勉強してた」
リュウの腕に抱きしめられているうちに、乱れきっていた心の中が、少しづつ静まっていくようだった。
「あのさ、あいつ、まだまだ、これから夢に向って頑張ろうとしているんだろう? だから、 お前が縛り付けたら可哀想じゃないか…。それもさ、子供が居る男の愛人みたいなのなんてやっ てられると思うか?」
リュウの言葉が、胸にグサッと突き刺さった。
だけど考えてみたら、確かにリュウの言うとおりなんだ。 鷹人には、夢がある。今は、その為に頑張っているって言うのに――。
「いつか、俺の為に絵を描きたいって言ってくれた…」
切なくて、涙が溢れてきた。
リュウの腕の中で思い切り泣いて、やっと自分を取り戻した俺は、心に決めた。
鷹人の気持ちに答えられるよう、子供に愛情を注いで生きていこうって。美砂と、生まれてくる新しい命…それを守っていくのが俺の役目なんだ。
「なぁ、シュン、お前がそんな風になったの、初めて見たよ」
心地良い腕の中で、すっかり平常心に戻っていた俺は、その腕がリュウのものだということを思い出し、急に恥かしくなった。
「え?」
モゾモゾとリュウの腕から逃げようとすると、再びギュッと抱きしめられた。
「俺も恥かしいから、そのまま聞けよ」
「あ…うん」
「お前、いっつも感情を殺してるっていうかさ、悩みとかあっても俺らには話そうとしなかっただろ?」
「…まぁ…」
傷つく事を恐れるあまり、恋愛に関してだけではなく、色々な感情を抑えながら生きていた。 だから、音楽について以外の相談事をメンバーにもした事がなかったかもしれない。
「もっと頼っていいんだぜ、俺らにも。まぁ、私生活を知られたくないってのはあるかも知れないけどな」
「ありがとう、リュウ。ごめんな、すっげー恥かしい姿見せちゃったな」
「気にすんなよ。奢ってもらうネタが出来たから…」
少しおどけたようにリュウが言った。
良かった…俺は1人じゃないんだ。
リュウの言葉にホッとした俺は、リュウの顔を見上げた。 その時、リュウの顔が有り得ない位近くにあって、ものすごく慌ててしまった。
リュウの顔が、俺の顔にどんどん近づいてきて、俺の鼻の頭に優しくキスをした。
「俺が守ってあげるから…」
それから、リュウの唇が俺の唇を塞いだ。
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