それから、料理が来るまでの間、お互いの近況を報告しあった。鷹人は俺のツアー中、マンションに居るのがいやで、ずっと仕事用の、鷹人が以前住んでいたマンションに入り浸っているのだそうだ。 「だってさ、瞬が帰ってこないのに、あそこに居ても意味無いし。どうせ前のマンションで仕事するんだから、 そのままそこで生活しちゃえと思って」 「そうだったんだ？　でも、今日はマンションに戻るんだろ？」 「当たり前じゃないか。シュンが居るのに、何が嬉しくて、仕事場に戻らなきゃならないんだよ」 「あはは…そうだよな。仕事場に戻ったら、俺だって怒るよ」 　小さな声でそう言ったら、鷹人の頬がわずかに染まった。 「あれ？もしかして、澤井？」 　急に声を掛けられて、振り向いてみる。声の主を見てみると、高校生の頃のクラスメイトのような気がする。 　でも、名前までは思い出せない。たしか同じクラスの奴のような気がするけれど…。 「やぁ、えっとゴメン名前…」 「田上だよ。健二の近所に住んでいた」 「あぁ、そうか、久しぶりだな、田上。健二も元気？」 　健二は高校の時のバンドの仲間だ。本当はあの頃の事、思い出したくないんだけど――。 「おう、元気だよ。向こうにいるぜ。亮もいるし…」 　そう言いながら田上は、賑やかな声が聞こえてくる奥の部屋を指差した。 「瞬…さん？」 　少し心配そうな顔をた鷹人が、俺を見ていた。 「高校時代の友達だよ」 　鷹人が小さく頷いてから田上の方を向いて、ぺこりと頭を下げた。田上も鷹人に向かって頭を下げたが、2人が顔を上げた瞬間、鷹人を見た田上が驚いたような顔をした。 「あれ…」 「何だよ？」 　俺は動揺を隠しながら聞いた。 「澤井の連れ、ちょっと英明に似てない？」 　田上が小さい声で言ったので、その声が鷹人に届いていたか、わからなかった。頼むから、思い出したくない過去に触れるのは勘弁して欲しい。しかも、鷹人の前で――。 「おい、田上、何やってんだよ？　ビールの追加頼んだのか？」 　田上を呼ぶ声が聞こえたので、思わず振り返ってしまい、俺は言葉を失った。 そこには、高校の頃一緒にバンドを組んでいた、あいつがいた。 俺が初めて愛しいと思った人。俺のことを愛してと何度も、何度も言ってくれた人。だけど、結局は俺の前から去ってしまった英明――。