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ONE DAY 7
ポットで置いてあるジャスミンティーを、鷹人と自分のカップに注ぎ、一息ついた。料理が美味しくて、 満足したっていうこともあるけど、何より、鷹人と食事が出来たことが、幸せだった。
「これ飲んだら、そろそろ帰ろうか」
「そうだね」
早く2人きりになりたいって思って鷹人を見つめた。思いが伝わっているんだろうか、鷹人がニッコリ微笑んで俺の腕をポンポンと叩いた。
「さて、早く帰ろう」
ジャスミンティーを一気飲みした俺は、すぐに席を立とうとした。すると鷹人は、「顔出さなくって良いの?」と言って、田上たちが宴会をやっている奥の部屋の方を見た。
俺は、鷹人と帰れると思って、笑顔を浮かべていたのに、そんなこと言われると、落ち込んでくるんだけど――。
「ちょっと…嫌かな――」
俺が正直な気持ちを伝えたら、鷹人は笑顔を向けてくれた。鷹人なりに気を使ってくれたんだろう。
「わかったよ。じゃ、帰ろ」
今度こそ帰ろうと席を立ち、会計しようと思っていると、後ろから声が聞こえてきた。
「何だよー澤井! 挨拶なしに帰るのかよ?」
振り向くとそこには、昔は俺と同じように背が低くて、華奢だったはずなのに、別人のように逞しくなった亮が立っていた。顔は全然変わってないからすぐわかったけど…。
亮はビックリしている俺の身体をギュウギュウ抱きしめて、懐かしんでくれた。
「お前、亮だろ? すっごくゴツクなったな」
「おう、よくわかったじゃん。久しぶりだよな、澤井。何年ぶり?」
「うーん? 大学の頃、ちょこっと会って以来かな? あの時はもっと細かったよな?」
「そうそう。お前は相変わらず、細くてちっこいな」
「亮はずいぶん変ったよなー? 何かトレーニングとかしてるわけ?」
「ん? まぁね。趣味で鍛えちゃってるわけ」
「へー。あの頃の不健康なお前から、想像出来ないよ」
「そーだろ? 今じゃタバコも吸わないんだぜ」
「マジ? 信じらんない」
「あ、それよかさ、帰る前に、顔だけ出してけよ。健二が待ってたぜ」
「あぁ、でも…」
「英明が気になる? お前らあの頃、喧嘩してたんだろー、やっぱり」
「ん、まぁ、そんな感じ」
「英明、さっき戻って来たとき、すごく呆然としてたぜ。良くわかんねーけど、瞬に悪い事した、とか言って落ち込んでたし」
話を隣で聞いている鷹人の視線を感じ、俺はすぐにでも帰りたくなった。
「瞬さん、挨拶してきた方が良いんじゃないですか?」
どうしようか迷っていると、鷹人が隣から声をかけてきた。俺たちの関係を知らない人の前で鷹人は、俺に敬語で話し掛ける事が多いのだ。
「だけど――」
俺は早く帰りたいのに…。
「俺、前の店でコーヒー飲んで待ってます。時間なら、まだ30分くらいありますし」
鷹人はそう言って、さっさと会計を済ませてしまった。
「ごめんな――」
俺がそう言うと、鷹人はコクンと頷いて「待ってますから、遅れないで下さいね」と答えた。
鷹人が俺に気を使ってくれてるのがすごくよくわかる。俺が行きたくないだろうというのもわかっているから、仕事があるふりをしてくれているんだろう。
「わかったよ。すぐ戻るから」
俺がそう言うと、鷹人が軽く右手を上げて店を出て行った。
「田上も言ってたけど、あの人、高校の頃の英明に似てるよな――」
その言葉に、胸がツキンと痛くなった。
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