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俺達が出会うために 3

 それから一週間が過ぎた。 その日は、進藤に誘われて、夕食がてら酒を飲みに行くことにした。進藤も恋人のサチがツアー中で居ないから、夜は暇を持て余しているのだ。 「鷹人、最近はどうだ? シュンとは上手く行ってる?」  連れて行ってくれた駅近の飲み屋で、メニューを見ているときに進藤に聞かれた。 「うん、まあね」 「そっか。なら良いんだけど」 「何でだよ?」 「ん…いや、昨日サチと電話してた時にさ、たまにシュンの様子がおかしい時があるんだって言ってたからさ。喧嘩でもしたのかと思ってね」  進藤がそう言いながらメニューをテーブルの端に置いた。 「喧嘩なんて、してないよ…」 「なら、いいや」  進藤の言い方が気になってしまった。瞬の様子がおかしいって、何かあったのだろうか? 「なぁ、どんな風におかしかったんだって?」 「サチの話だから、詳しくはわからないんだけどさ、瞬がスマホ見つめて、思いつめているみたいなことが、時々あるんだって言ってた。鷹人って、忙しい時、結構冷たいから、シュンが傷ついているんじゃなかと思って…」  進藤にそう言われたけれど、思い当たることがない。だって俺が冷たく当たるのは、進藤にだけだから――。 「俺、瞬には、お前の時みたいな態度とらないもん」  そう言ってから、自分は進藤に対して気を許し過ぎなのかもしれないと、少し反省した。 「何だそれ? すっげー差別。でもま、鷹人じゃなかったのかもな、電話の相手が…」  その時、店員がオーダーを取りに来たので、その話は終わってしまった。俺はその後、進藤の話を聞くふりをしながら、瞬の事を考えていた。  そう言えば、ツアーに出る数日前に、スマホの着信音に酷く驚いた顔をしていた…。どうしたのか聞いたら、最近、非通知の電話が来ると言っていたっけ――。俺の心に、再び不安が渦巻き始めた。 「鷹人、もう一軒行こうぜ。どうせ、お前も寂しい一人寝だろ?」  酒に強いわけでもないのに、今日は殆ど酔っていなかった。しらふで居るのが辛い…思考が停止するほど酔ってしまいたかった。 「そうだな…行くか」  そう言いながら席を立とうとしたとき、1つ向こうのテーブルに見たことのある人物をみつけてしまった。その人物はどうやらこちらを見ているようだ。 俺は気がつかない振りをして、進藤の後について行こうとした。 「なぁなぁ、そこの君、澤井の知り合いだよな?」  そう声を掛けられ、無視するわけにもいかず、仕方なく振り返った。 「…はい? えっと…」  人懐っこそうな笑顔の人物が俺を見て手を振った。 「俺、田上。ほら、中華料理屋でこの間会ったよな。君、澤井と一緒だっただろ?」 「…あぁ、どうも…こんばんは。偶然ですね…」  俺はすぐにでもその場を去りたかった。田上さんの向かいに座っている俺に似たあいつが、俺の事をじっと見ている…。  酷く気分が悪い。一気に酔いが回ったようだ。

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