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俺達が出会うために 5
「ちょっと、トイレ…あと、子供に電話もしてくるわ」
田上さんがグラスをテーブルに置いて、席を立ち上がろうとした。
「お前も、すっかり父親だよな。子供を気にかけるようになるなんて、変わったよなー」
「ホントだな。だってよ、可愛くて可愛くて、目の中に入れても痛くないってこのことだな」
「まぁ、すっごく可愛いのは、小さいうちだけだぞ…特に女の子は」
吉永が、そう言ってから笑いながら、タバコの煙をフウッとはいた。
「何とでも言え」
目じりを下げたままの田上さんが、席を立って店の奥に行ってしまった。
俺は、さっき進藤の言っていた、瞬の電話の相手が、英明のような気がして落ち着かず、田上さんのいない間に聞いてみる事にした。
「あの、もしかして吉永さん、瞬さんに連絡していませんか?」
俺がそう言うと、英明は一瞬顔色を変えた。やっぱりそうか…。
「…澤井が何か言ってた?」
「いえ、何も」
「そう…ごめんな。君にも迷惑掛けたね…」
進藤の方をチラッと気にしながら、英明が言った。お前は一体、瞬に何を言ったんだよ…?
「スマホの番号…」
「え?」
「電話番号って、瞬さんが教えたんですか?」
瞬は、英明には会わないって言ったのに…どうして電話番号を教えたのだろう?
「違うよ」
そう言って英明が笑ったような気がした。俺は馬鹿にされたような気がして、嫌な気分になった。
俺たちの前で、進藤がタバコを吸いながら、事の成り行きを見守っているようだった。
「澤井の実家に電話して聞いたんだ。高校の頃、俺たちが仲が良かった事、瞬の母親が覚えててくれたから教えてくれた」
「そうですか…。でも、どうしてですか?」
お前には関係ないと言われても仕方ないことなのに、聞かずにはいられなかった。
「この間、瞬に話したことが、今の瞬にとって迷惑な事だったかもしれないと思ったからさ」
英明が俺の目を見ずにそう答えた。
「話って…」
そう問い掛けた時、田上さんが戻って来た。
「ごめん、英明。子供が熱出しちゃったって。今から病院連れて行くから、俺帰るわ」
「大変だな、急いで帰ってやりな」
「すまん…ホント。また飲もうな。えっと、渡辺さんも進藤さんも、申し訳ない」
田上さんが深々と頭を下げた。
「いえ、良いんですよ。お大事に」
挨拶もそこそこに、田上さんが慌てて店を出て行った。
「じゃあ、俺達も帰ろうか」
進藤がそう言ったけれど、俺はまだ帰る気にはならなかった。
こいつが、瞬に話したっていう内容も気になるし、それに、こいつには、キッチリ俺の気持ちを伝えておかないと、瞬を連れて行かれてしまいそうで恐かった。
「進藤、俺、ちょっと吉永さんに話があるんだ」
俺の真剣な申し出に、進藤が困ったような顔をした。
「わかったよ…お前、何だか恐い顔してるぞ。喧嘩されると困るから、俺も居ても良いか?」
「あぁ。頼む…」
進藤がさっきまで田上さんのいた席に移ると俺を隣に呼んで、英明と俺が斜め向かいに座るようにと言った。俺がいきなり隣から殴りつけるといけないから…と物騒な事を言っていた。
「で、吉永さん、瞬さんに話した事って?」
椅子に座りなおし、英明の顔を見た。英明が進藤と俺の顔を見比べて、言うかどうか迷っているのがわかった。
「進藤は、俺と瞬さんのこと知ってます」
「そうか…。君と瞬は、良い友達を持っているみたいだね」
「はい」
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