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俺達が出会うために 6

 それから吉永が話してくれた内容に、俺は胸が痛くなってしまった。どう思ったんだろう、ずっとずっと人を愛する事が出来なくて、辛い想いをしていた瞬は…。 『本当は別れたくなかった。酷い事を言ったけど、本心じゃなかったんだ』そんな事今さら言われて――。  あの日、こいつは瞬に、もう一度やり直そうって言ったのかもしれない。もしかして…だから、あの日、瞬はむちゃく ちゃに俺を求めたのだろうか? こいつに抱かれたいって…思ったんだろうか? 「吉永さん、瞬はまだ、貴方のことを忘れていないと思う。たとえ、瞬が悲しむような別れ方をしていたとしても…。可哀想に瞬は、長い間、人を愛する心を持てなかったって、言ってました。でも、それは、貴方のことをずっと愛していたからじゃないかと俺は思います。俺を初めて見た時、貴方のことを思い出したって…。今でも瞬は、俺の中に貴方を求めているのかもしれない。だけど…だけど、俺は、それでも瞬を離さない。貴方には渡さない」  テーブルにのせていた両手をギュッと握り締め、英明を睨んだ。 不安だった。いくら虚勢を張っても、瞬の気持ちは、俺にはどうする事も出来ない…。 「どう言ったら良いかな」  しばらく黙っていた英明が、静かに言った。俺は1人で熱くなっていた事が、少し恥ずかしくなった。 「もう、瞬との事は、ずっと昔に終わってる。瞬もそう思っているだろう…。俺には今、妻も子供もいるし、とても 幸せだよ。親父の仕事も上手く行っている。いずれは俺がその仕事を全部任される。瞬を俺のものにしようなんて思ってないさ」 「…」 「それに、渡辺さん。瞬だって、俺とやり直したいなんて、思ってないはずだよ」 「じゃ、何を…」 「あの時、瞬の顔を見たら、どうしても伝えておきたくて、言い訳をしてしまったんだけど、その事で、瞬の心が揺れてしまって、渡辺さんと上手く行かなくなっていたら…って心配になったんだ。自分勝手な言い訳をした事を、電話で瞬に謝ろうと思った。でも、最初かけた時は、忙しいからって切られて、その後、何度かけても出てくれなくて。で、この間、やっと出てくれたから、話をしたんだけど、『お前はいつも自惚れすぎだ』って言われた。『俺と鷹人の関係には、何の影響もなかった』って。ハッキリね」  英明が、少し寂しそうな笑顔を浮かべていた。 「なんだ、鷹人。熱くなり損だな」  進藤に言われて、ガックリと力が抜けてしまった。でも、そんな風に余計な事いう奴だけど、進藤が傍に居てくれて良かったと思った。俺1人だったら、熱くなりすぎて、英明の言葉をちゃんと聞かないうちに、喧嘩を売っていたかもしれない。 「はぁ…すごくホッとした…」  心の中で言おうと思った気持ちが、しっかり言葉に出ていた。 「安心してください。俺には、家庭を壊す勇気は無いから。小心者だから、瞬の事を愛してたって、他の誰にも言えなかった。世間の目に俺は勝てないと思う。そんな俺の所に、瞬が戻ってくるはず無いよ」 「俺は…俺は、どんな事があっても、瞬の事を守ります。もう、瞬の傍を離れない…」 「瞬は、本当にいい人に出会ったんだな。良かったよ」  その後、俺は英明に対する失礼な態度を詫び、進藤と3人でベロベロになるまで飲んだ。話してみると英明はすごくいい奴で、瞬が惚れ込んだのもわかるような気がした。

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