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俺達が出会うために 7
「もう、瞬には連絡しないから。メモリー消しておくよ」
「お願いします。俺、すごい不安だから」
「何だ。絶対、瞬の傍を離れない! とか言っておいて、結構お前も小心者だったんだな」
「…だって、いくら俺が離さないって思ってても、瞬がそう思ってなかったら、ダメだと思いません?」
「まぁ、そうだけど…。瞬の君への惚れ込みようは、すごいものがあったから、大丈夫だと思うよ」
「そうですか?」
何だか、そう言ってもらえたら、すっごく安心して、顔が綻んでしまった。今、何を言われてもヘラヘラ笑っていられそうな、そんな感じだった。
「おい、鷹人、よだれ垂れそうだぜ…」
「んなわけねーだろ?」
グラスをくちに運びながら、進藤の身体を小突いた。
「ほらほら、渡辺!こぼれるぞ!」
すっかり俺の事を呼び捨てにしている英明が、俺の口元にお絞りを持った手を伸ばしている。
「ヘ・イ・キ・ですって!」
そう言ってからグラスを口に付けて、中に入っているビールを飲んだ…。
つもりだった……。
「ほら、言ったこっちゃない!」
ビールを飲みそこなった俺は、進藤には胸元を、英明には、口に入らず顎を伝っているビールを拭いてもらっていた。
「変だなぁ? ちゃんと飲んだんだけど? グラス、穴あいてない?」
緊張の糸が切れてしまった俺は、すっかり迷惑な酔っ払いになっていて、気がつくと、進藤がタクシーでマンションの前まで送ってくれていた。
「すまん…進藤」
「お前に迷惑掛けられんの、慣れてるから」
進藤の小ばかにしたような顔が憎らしい…。けど、言い返せるはずもない。
「そんな顔すんなって。良かったじゃん、問題解決したんだろ?」
「…まぁな」
「じゃ、色々詳しい話は、後日レポートにして、提出するように」
「アホか」
「ったく、始末書ものだぜ…鷹人くん」
「俺、何かやったっけ?」
「んー? やったやった。店出た後、一発殴らせろって」
「…誰が…誰に?」
「お前が、吉永さんに」
ガーン…覚えてません。
「なぁ…マジ?」
「冗談」
「進藤! お前なぁ」
「じゃ、またな」
進藤の乗ったタクシーが俺の前からスッと居なくなってしまい、俺の叫び声は、虚しく夜の闇に吸い込まれていった。
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