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愛しい人と 3

 驚いた様子の鷹人は、隣にいた男性に何か一言いうと、慌てて俺の手を引いて、部屋の中に入った。 「ごめん、鷹人」 俺はそう言うしかできなかった。 「瞬、明日来るんじゃなかったの?」  鷹人は俺の頭をグリグリと撫でながら言った。鷹人は時々、かなり年上の俺の事を子ども扱いするんだ――。 「仕事が早く終わったから、来ちゃったんだよ」  俺がそう答えると、鷹人は嬉しそうな顔になった。 「すごく嬉しいけど、びっくりだよ。とにかく、服を着てここで待ってて」  そう言って鷹人が、もう一度玄関に向った。  俺はベッドルーム行き、ちょっと前に持ってきた収納ケースから服を出して着替えた後、鏡の前には立って髪を整えた。  それからすぐに、鷹人が俺を呼びながらベッドルームに入って来た。そして、部屋のドアを閉めて、俺の体に腕を回すと頬にキスしてくれた。 「鷹人、あの人は仕事の関係の人?」  頬から鷹人の唇が離れると、俺は至近距離で鷹人を見つめながら聞いてみた。 「ううん、違う。あれは俺の父親」 「え…」  マズイ、よりによって父親だとは…。鷹人の親父さんは、半裸の男が自分の息子に抱きつこうとしているのを見てどう思っただろう――。 「ごめん、どうしようかな…」 「えっとね、瞬…」 「なぁ、鷹人、俺、きちんと挨拶する。お前と付き合ってるって言うよ。いいだろ?」  俺が真っすぐ目を見ながらそう言うと、鷹人は少し迷っていたようにも見えたけれど、一度目を瞑ってから頷いた。 「俺も付き合ってる人が居るってことは言ってあるんだ。将来的には一緒に暮らしたいからって…」 「でも、男だって言ってないだろ?」 「うーん、まぁ…」  鷹人が困ったような顔をしているのがわかった。  本当の事を話しても、鷹人は大丈夫なのだろうか? 俺は少し迷っていた。でも―― 「親父さんにどう思われても、仕方ないよな。ごめんな、鷹人。俺、鷹人の親父さんに反対されても、お前と別れないよ。それでも良い?」  俺は迷いを振り払ってそう言った。 「あぁ、良いよ。俺だって瞬のこともう離さないって決めてるから」 「良かった。じゃ、行こうか」  お互いの気持ちはゆるがないものだとわかってはいるものの、鷹人の父親に反対されたらと思うと、胸が苦しくなるくらいドキドキした。こんなに緊張するのは、初めてのライブ以来だろうか? いや、あの時以上かもしれない――。

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