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愛しい人と 4

 意を決して2人で居間に行くと、鷹人の親父さんはソファーに座ってくつろいでいる様子だった。 「先ほどは、失礼しました」  ソファーの近くまで行って、俺はそう言いながら深々と頭を下げた。  顔を上げて鷹人の親父さんを見ると、親父さんは俺を見て、驚いたような顔をしていた。 「いやいや。まぁ、ちょっとビックリしたけどね」  鷹人の親父さんは嫌な顔もせず、柔らかい笑顔を向けてくれた。 「なあ、父さん、こっちで話そうか」  鷹人が食卓の椅子を引きながらそう言った。 「あぁ、わかったよ」  親父さんはソファーから立ち上がり、鷹人が引いた椅子に腰かけた。鷹人が親父さんの向かいに、そして俺は鷹人の隣に座った。 「父さん、彼は澤井瞬さんって言うんだ」  鷹人が少し緊張したような声で、俺を紹介してくれた。 「初めまして」  俺は緊張して、声が震えそうだった。太ももの上に置いた手に汗がにじみ始めた。 「初めまして、鷹人がお世話になってます」  親父さんが俺に視線を向けながらそう言った。穏やかな表情のままだったので、少し安心した。 「あのさ、父さん」  鷹人が話を切り出そうとした。でもここは、年上の自分が先に言わければいけないと俺は思った。 「鷹人、俺から話すよ」 「え、あぁ。わかったよ、瞬」 「いつも、鷹人君には、お世話になってます。あの、突然ですが、聞いて頂けますか? 俺、実は鷹人君と…」  俺がそこまで一気に話すと、鷹人の父親がニッコリ笑って頷いた。 「君が鷹人の恋人なんだよな」  鷹人の親父さんがそう言った。表情は穏やかだったけれど、それが余計に俺を緊張させていた。 「はい……すみません、そうなんです」  俺が謝ると、鷹人の親父さんの表情が少し曇ってしまった。俺は背中に冷や汗が伝うのが分かった。 「何で謝るんだい?」 「え?」 「だって、父さん、瞬は…」  鷹人が助け舟を出そうとしてくれているのがわかった。 「綺麗な人だけど、男性だよな」  鷹人の親父さんがそう言った。俺は他に言うべき言葉を見つけられず、テーブルを見つめながら「はい」と答えた。  親父さんは、しばらく黙って俺と鷹人の様子を伺っているようだった。覚悟はしていたけれど、何を言われるのかわからなくて、沈黙がとても恐かった。 「ごめんな、父さん」  沈黙を破り、鷹人がそう言って親父さんに頭を下げた。俺も鷹人の横で、もう一度頭を下げた。 「何で謝るんだ、お前たちは。謝ったら、お互い相手に失礼だろ?」  親父さんが溜息をついてからそう言った。俺はその言葉を聞いて、ハッとして顔を上げた。親父さんは真剣な表情をして、俺達の顔を交互に見ていた。 「あ…えっ?」   俺の隣では、鷹人が言葉につまって何も言えなくなっていた。俺も親父さんが次に何と言うかわからなくて、黙っているしかなかった。

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