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愛しい人と 5
「瞬くんは、お前が選んだ人なんだろ? それとも、謝らなくちゃいけないような事をしている人なのか?」
沈黙がしばらく続いた後、鷹人の親父さんが穏やかな声でそう言った。
「そんな事ないよ。瞬はとても良い人だ。優しいし…俺、瞬を尊敬してる」
「それだったら、堂々と、『俺の付き合っている人です』って言っていいじゃないか。瞬くんもだよ」
「…はい」
鷹人の親父さんの言葉に俺は、驚いたし、救われた気がした。だけどその言葉が、俺達の交際を認めてくれたから出た言葉なのか、まだわからなかった。
「俺、鷹人君と付き合っています。一緒に生活したいと思っています。すべての人に、理解してもらおうとは思っていません。でも、わかってください、俺、鷹人君のことを真剣に愛してます。…認めて頂けないかも知れないのですが――」
そう言った俺に、親父さんは笑顔を向けてくれた。その後、視線を鷹人に移しながら言った。
「お前は、どう思ってるんだ? 鷹人」
「お、俺も、瞬と一緒になりたいって思ってる」
鷹人が少し焦ったようにそう答えた。すると、親父さんは安心したようにフッとため息をついた。
「そうか、わかったよ」
「え…いいの?」
「良いも何も、2人ともいい大人だろ。2人が話し合って決めた事なら、私は反対しないよ。私に話してくれたって事は、相当覚悟を決めてのことなんだと思うから。周りの雑音に振り回されず、2人で幸せになりなさい」
鷹人の親父さんがそう言ってから大きく頷いた。
「ありがとうございます」
その時俺は感動して泣きそうだった。鷹人が温かくて優しいのは、この人のおかげなんだなって思った。
「ありがとう…父さん」
鷹人の声は鼻声だった…多分、鷹人は泣いていると思う――。
その後、親父さんは鷹人の仕事について色々聞いていた。鷹人は殆ど仕事の話をしてくれないと親父さんが俺に愚痴っていた。鷹人は親父さんが聞いてこないからだと言っていたけれど。父親と息子ってそんな感じなのかも知れない、と自分の父親を思い出してそう思った。
俺も両親に話をする機会を作らなくては…。両親は毎年、年末から1月の中頃まで日本に居ないので、帰って来るのを待って、とりあえず俺から話をしておかないと-―。
「ところで、瞬くんは何の仕事を…」
鷹人の親父さんがそう切り出した瞬間、親父さんのスマホが鳴りだした。
「ごめんな、瞬くん。ちょっと待って」
親父さんはスマホの画面を見て慌てて電話に出ると、短い会話をかわした後、大急ぎで宿泊しているホテルに帰っていった。
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