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愛しい人と 6
「ここがあるのに、何でホテルに泊まってるの?」
親父さんを見送った後、俺は鷹人に聞いてみた。てっきり泊まっていくと思っていたのだけど――。
「それがさ…」
鷹人の話だと、今朝、突然親父さんから電話が来て、鷹人に会わせたい女性が居るから、会おうと言ってきたそうだ。
で、さっきまで鷹人はその女性と会っていたらしい。親父さんは、その人と再婚すると話したそうだ。鷹人は、父親には幸せになってもらいたいから、もちろん大賛成だって。
その後、相手の女性が一人で買い物したいと言ったらしくて、その間、親父さんは家に寄る事にしたんだとか。
「相手の人は、どんな感じだった?」
鷹人の父親には理解してもらえたけど、義理の母親になる人には、どんな風に思われるのだろう? 俺は気になり始めていた。
「うん、すごく感じの良い人。楽しいし、可愛かったよ」
鷹人が感じが良いって言うなら、きっとそうなんだろう。鷹人の親父さんが選んだ人だ、きっと大丈夫…。 俺は不安になった気持ちを、そう思い直すことで落ち着けようとした。
だけど…鷹人が『可愛かった』って言葉を使ったのが、ちょっと引っ掛かってしまった。再婚相手は、鷹人が『可愛い』って思うような若い女性なんだろうか?
「鷹人は、可愛いお母さんが出来て嬉しいんだろ?」
「え? そりゃ、嬉しいよ。俺、母親居なかったからなー」
「母親に可愛いなんて、どうなんだよ?」
俺は自分でもわかるくらい、拗ねたような声で呟いてしまった。
「なんだよ、瞬? 父親が再婚する相手って、50過ぎの人だよ」
鷹人が呆れたようにそう言った。
「え…あ、そう?」
「本当に可愛いって思うのは、瞬だけだよ」
鷹人がそう言って俺の額にキスをした。俺の方が年上だっていうのに…また、やってしまった感じだ。
「えーっと。…とにかく、寝ようか」
ヤキモチ妬いていたのがバレて、恥ずかしくなってしまい、俺はさっさとベッドルームに向って歩き出した。
「俺、風呂入ってから寝るから。先寝てていいよ」
ベッドルームに向ってる俺に、鷹人がそう言った。
大掃除もしたし、想定外の事が起きたから、ものすごく疲れてしまった。とにかく寝よう――。
ホントは鷹人と抱きあうつもりでいたけど、今日はもういいや…。
どのくらい時間が経っただろう? ベッドでまどろんでいると、隣に鷹人が滑り込んできたのがわかった。背中から抱きしめられて、とても幸せな気持ちになった。
今日は鷹人の父親にふたりの仲を認めてもらえたし、明日からしばらく鷹人と一緒にいられる、何て良い気分なんだろう――。
「愛してるよ、瞬」
耳元で鷹人の囁く声が聞えた。愛してるよ、鷹人…俺は心の中で呟いた。
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