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愛しい人と 8
「なぁ、鷹人、何やってたの?」
黙々と画面とキーボードを見ながら作業している、鷹人の後ろに回ってみた。
「あ、年賀状かぁ…」
「うん、まだ出して無かったんだ」
「俺は、もう何年も出してないな」
「本当は面倒臭いんだけど、仕事関係位は出しておこうかなってね。友達の分は、葉書じゃなくて良いし」
「なるほど」
話しながらだと作業しづらいだろうと思い、俺はキッチンに行って、自分でコーヒーを入れることにした。
「鷹人も飲む?」
「ありがと…でも俺は、いいや」
「わかった」
マグカップを持ってソファーの所に行った。お互い忙しい時には、邪魔をしないようにする習慣がついてきたのだ。
俺は鷹人と同じ空間に居るだけでも幸せだって思う。鷹人もそう思っていてくれるんだろうか? 俺ってホントに鷹人の事が好きなんだなぁ…。そんな事を思いながら、パソコンの前で難しい顔している鷹人を眺めていた。
「瞬、大変だ、そろそろ行かないと」
鷹人の慌てたような声が聞こえてきて、意識がはっきりした。俺は飲みかけのマグカップをサイドテーブルに置いたまま、ソファーでウトウトしていたのだ。
「わ、ホントだ…」
俺は急いでソファーから立ち上がり、カップをキッチンに片付けてから出かける準備をした。
「瞬、ちょっと待って」
コートをはおった後、スマホをポケットに入れながら玄関に向かっていた俺を、鷹人が背中から抱きしめた。
「こっち向いて」
「え?」
鷹人の腕の中で体の向きを変えると、鷹人が俺の唇に触れるだけのキスをした。
「ごめんね。構ってあげられなくて」
鷹人の言葉がくすぐったかった。俺のほうが年上なんだから、『一緒に居るだけでも幸せだよ』ってカッコ良く言おうかと思った…。
だけど、ホントは傍で甘えていたかったので、鷹人の腰に腕を回し、唇に軽くキスをした後、素直な気持ちを言った。
「後でちゃんと構ってくれよ」
「了解。いっぱい構うからね」
今すぐ構って欲しい気持ちになったけど、そういうわけにもかないよな――。
それから、俺達は、鷹人の親父さんと親父さんの恋人に会うために家を出た。
待ち合わせの場所に着くと、鷹人の親父さんがすぐに俺達を高層ビルの最上階にある高級中華料理店に連れて行ってくれた。
個室だったから、他の人の目に触れなくて良かったと思った半面、そのことがかえって俺を緊張させたみたいだ。昨日、鷹人の父親に初めて会った時もそうだったけれど、俺はこういうシチュエーションが本当に苦手だ。
そう言えば、ミサの両親に会った時も、酷く緊張したものだ…。そう考えてから、心の中で苦笑した。
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