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愛しい人と 9
鷹人の親父さんの仕切りで、挨拶を済ませた後は、緊張も解けて色んな話を始めた。鷹人の言ってた通り、良子さんは明るくて感じの良い人で、場の雰囲気を和やかにしてくれた。
親父さんの話だと、1年位前に良子さんのやっている飲み屋にたまたま行って2人は運命の出会いをしたのだとか。何のきっかけか忘れてしまったけれど(多分、2人の秘密なんだ)親父さん達はすぐに意気投合して付き合い始めたそうだ。でも、家族になろうという話になったのは、1ヶ月前だということだ。こういうのも、タイミングだよな…って言って、親父さんが笑っていた。
良子さんの前の旦那さんは、8年前に病気で亡くなったらしい。それから女手ひとつで、小学生だった息子さんとと娘さんを育ててきたそうだ。たくましいな…と思って感心していると、苦労した事も笑い話に出来るくらい、今は幸せだと言っていた。
俺と鷹人が付き合っているという話は、昨日のうちに鷹人の親父さんから聞いていたようで、『お互いに幸せになりましょうね』って、良子さんが言ってくれた。俺はすごく照れてしまったけど…。
「ところで、澤井さんは、どういうお仕事しているの? なんだか、どこかで会った事があるような気がするんだけど…」
良子さんが俺の顔をジッと見てから、そう言って首を傾げた。
「そう言えば、昨日聞きけなかったんだよな、瞬くんの仕事。雰囲気からいって、ファッション関係の仕事か、鷹人と同じようにデザイン関係かな?」
鷹人の親父さんがビールのコップを置いてからそう言った。
ミュージシャンだってことがすぐにバレてしまうのも嫌だけど、改めて説明するのも照れくさいな――そう思っていると、鷹人がすぐに助け舟を出してくれた。
「瞬は…あ、澤井さんはね、歌をうたってるんだ」
「まぁ…もしかして、芸能人?」
「えぇ…そうなんです。それで、父さんも良子さんも、お願いがあるんだけど」
鷹人が背筋をピンと伸ばしてからそう言った。
「なんだい? 話してごらん」
「俺は別に有名人でもないし、この仕事やってる人は色んなタイプの人が居るから、それ程注目されることはないと思うんだ。だけど、俺達の関係が知れて、澤井さんの仕事に支障が出るといけないから、今のところは俺と澤井さんの関係を他の人に言わないで欲しいんだ…その…近所の人とか、親戚とか――」
鷹人がそう言ってくれた。すると、親父さんが首を傾げながら言った。
「もしかして、そんなに有名なのか? 瞬くんは」
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