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愛しい人と 10

 本当に知らないんだ? って鷹人が呟いた。 「父さん位の年の人はわからないかもしれないけど、俺達より若い人には、すっごい有名。だから…」 「そうか、わかったよ。お前達が困るような事はしないから、安心しなさい」  鷹人の親父さんがそう言うと、良子さんが隣で力強く頷いた。 「宜しくお願いします」  俺と鷹人は深々と頭を下げた。 「まかせてちょうだい。あなた達の幸せの為に、私も協力するからね」 「ありがとうございます」 「それにしても、嬉しいわ…素敵な息子が2人も増えるなんて」  良子さんがそう言って、微笑んだ。そういう風に思ってもらえるなんて、めちゃくちゃ幸せなことだ。同性同士の恋愛なんてなかなか理解してもらえないだろうから――。  その後、俺達の出会いや恋愛に至るまでの話を良子さんがさり気なく、でも的確に聞いてきた。さすが、飲み屋のママさんだ。 「大変だったのね、2人がこうして一緒に居られるようになって、本当に良かったわ」  良子さんがそう言ってくれて、嬉しかった。俺達にまた1人心強い見方が出来て本当に良かった。  それから、しばらく良子さんが家族の話をしていた。そして息子さんの話をしている途中――。 「そうそう、うちの息子も、大学の友達とバンド組んでいて、ギターやってるのよ。何とかってバンドの、サチって人みたいになりたいって言っててね」    突然『サチ』という名前が出てきたので、俺は焦って鷹人の方を見た。すると、すかさず鷹人が「もしかして、サーベルってバンドじゃないですか?」と聞いた。 「それよ、サーベルだったわ。息子がサチって人の大ファンで、部屋にポスターまで貼ってるのよ」  良子さんの話を聞いて、俺と鷹人は顔を見合わせてしまった。 「あら! そうよ、会った事があるような気がする訳だわ。澤井さん、息子の部屋のポスターに写ってたわよ! そうでしょ?」  良子さんが興奮したように言った。一生懸命声を潜めようとしている良子さんの姿が少女のようでとても可愛らしかった。 「はい…そうなんです…」  その後、良子さんは息子に自慢しよう! って言ってから、慌てて、それはまだダメよねと言って、一人で頷いていた。 「すみません…。本当は公表しても良いって思ってるんですが、俺が離婚経験者で…。それで、まだ、鷹人くんのことを親に言えないでいるんです。あ、でも、離婚と鷹人くんの事は、関係ないんです。俺が家庭を大事にしなかったから、妻に愛想つかされたんです…」 「瞬…」  鷹人が心配そうに俺を見ていた。鷹人、お前がいれば俺は大丈夫だよ――。

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