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愛しい人と 18
「ほら、早く」
着替え終わった俺はベッドに腰かけ、ノロノロと着替えている鷹人を急かした。
「これねぇ…まぁ、いいか」
いつもと違う鷹人に俺も少し戸惑ったけど、背が高くて脚が長い鷹人は、何を着てもよく似合うと思う。これは恋人の欲目かもしれないけど――。
いや、違う。本当にカッコいい。あまり服に興味なかった鷹人に俺の好みの服を選ぶようになってから、ますますカッコよくなってるし、この若者の服を着こなしているってことは、鷹人って素材が素晴らしいってことなんだ。
「大丈夫、すごい似合ってるよ。鷹人、カッコ良い。モデルみたいだよ」
自信なさげな顔をしていた鷹人が、照れくさそうに俺を見た。
「そう??」
鷹人が鏡の前に行ってさかんに首をひねっていた。着慣れない格好をしているから落ち着かないんだって。
「俺が言うんだから間違いないよ。本当にカッコいんだから、もっと堂々としていて良いんだよ。誰にも分らないと思うし、自分だってこと忘れちゃおうよ」
俺はソワソワしている鷹人を落ち着かせた。
「じゃ、出発!」
2人でマンションのエントランスを出て駅に向かった。マンションが見えなくなると、俺はおもむろに鷹人と手を繋いだ。
鷹人はビックリしたように俺を見たけれど、大丈夫、俺達は普通の恋人同士に見えるってば。
「良いでしょ?」
「う、うん」
鷹人はまた照れくさそうな顔をした。その表情、結構好きかも…俺は心の中で思っていた。
電車に乗って、初詣する神社に向かった。俺だって事誰も気付いていないから、すっごく気楽だし鷹人と手を繋いでいられるのがメチャメチャ嬉しい。
電車を降りたら、ニットの帽子を深めにかぶって、屋台の並んでいる道を進んだ。
「帰りに何か買って食べようよ」
隣に並んでいる鷹人の手をギュッと握ってからそう言ったら、鷹人の頬から耳にかけた一帯が真っ赤に染まった。
「ああ、そうだね」
初めてのデートみたいな鷹人の反応に、俺はますます嬉しくなった。
それから、参拝の長い行列に並びながら、俺は鷹人に甘えるように寄り添った。
ずっと昔から、人前でベタベタいちゃついているカップルに対して、『周りが見えないのかよ…恥かしい奴ら』って思っていたのだけど、俺は今、その「いちゃついている」状況に、実に満足していた。鷹人は相変わらず困った顔していたけど――。
やっとのことで賽銭箱の前に着くと、警備している警官に当たらないように気を付けながら賽銭を投げた。それから両手を合わせ目を瞑る。仕事の事、家族の事、それから…
『仕事も大事ですが、今は鷹人が1番大切です…。彼との時間を少しでも長くとれますように。2人で幸せになれますように……』
神様…いつもより奮発したつもりです…俺の願いをきいて下さい。
『鷹人と、いつまでも一緒にいられますように――』
良い年になりますように!
終わり
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