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夏休み 4

 朝食を食べていなかった俺達は、新幹線が走り出すとすぐに弁当を開けて食べ始めた。 鷹人の弁当のおかずをつまんだり、俺がちょっと苦手なニンジンの煮物を鷹人の口に押し込んだり、人目を気にせず過ごすことが出来た(誰かに見られていたのかも知れないけど)。 久しぶりに自分達の時間が持てたって感じ。朝からビールも飲めたし、メチャメチャ幸せな気分だった。  弁当を食べ終わると、アルコールが入ったせいもあり、突然の睡魔に襲われ、俺はいつの間にか眠ってしまったようだ。  鷹人に肩を揺すられ目を覚ますと、俺たちを乗せた列車は今まさに新神戸駅にしようとしているところだった……。 「もう着いたんだ?」  窓の外を眺めたり、車内販売で何か買ったり、もちろん鷹人と話したり……、もう少し新幹線の旅を楽しみたかったのだけど――。 「うん、瞬はずっと寝てたからね」 「ゴメンな」 「良いよ。久しぶりにゆっくり寝顔を見ていられたから」  鷹人の言葉を聞いて、俺は急に照れくさくなってしまった。 「瞬、耳が赤い」 「恥ずかしいだろが……家じゃないとこでそんなこと言われたら――」  俺がそう答えると、鷹人が嬉しそうに笑った。  窓の横に新神戸駅のホームが見え始めたころ、座席の上の棚から荷物を下ろした。 「さて、出口の方に行ってようか」 「そうだね」  神戸にはインディーズの頃に何度か来た事があったな。でも、その頃はバンで移動していたから、街の記憶はあまり残ってないや――。俺は昔のことを思い出しながら窓の外を眺めた。 「父さんが迎えに来てくれていると思うんだ」  改札を抜けると、鷹人がそう言いながらキョロキョロと周りを見回した。 急に緊張してきた俺は、ライブが始まる前と同じように、目を瞑り『大丈夫!』と心の中で自分に言い聞かせ、深呼吸をした。 「あ、あそこに居るの、鷹人の親父さんじゃない?」  目を開けた途端、品の良い優しそうな鷹人の親父さんが視界に入った。柱のそばに立っていた親父さんは、俺達に気付くと右手を上げて軽く手を振った。 「あ、いたいた。手なんか振ってるし……」  そう言って鷹人が照れくさそうに笑いながら、親父さんに手を振り返した。  軽く挨拶を済ませると俺達は親父さんの車に乗り込み、良子さんと鷹人の弟達の待つ家へ向かった。 「疲れているのに悪かったね、瞬君」  鷹人の親父さんがそう言ってミラー越しに俺を見て微笑んだ。鷹人によく似た笑顔だ。 「いえ、大丈夫ですよ。俺、いえ、僕も挨拶に来たかったんです。えっと……家族として」  照れくさかったけど、実感したいという気持ちを込めて「家族」という言葉を使った。すると、鷹人の親父さんが嬉しそうに頷いた。 「そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。良子も楽しみにしているんだ、鷹人と瞬くんに会えるのをね」  俺は隣に座っている鷹人の手をギュッと握った。鷹人の新しい家族は俺たちをどんな風に迎えてくれるんだろう?

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