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夏休み 6

「あ……」  出てきたのは、黒いTシャツに黒い細身のパンツ姿で、長めの茶髪を頭の後ろで無造作に束ねている長身の男性だった。 多分、こいつが鷹人の弟・良孝なんだろう。確かミュージシャンを目指している大学生だっけ。  俺もこんな風に尖がっていた時期もあったよな――そう思いながら俺は、落ち込みそうだった気持ちを切り替えた。 「あ、どうも……」  良孝は俺たちを見て、驚いたような顔をしてから、頭をかきながら困ったように俯いた。 「……」  鷹人も俺も、何と言って声をかけたらいいのかわからず、黙ったままぺこりと頭を下げた。 「良孝!」  すぐに玄関から良子さんが顔を出した。 「どこか行くのか? 良孝――」  その時、車を置いて戻って来た鷹人の親父さんが、良孝を見て驚いたような顔をした。 「えっと……」 「とにかく家の中に入ろう」  親父さんがそう言うと、良孝は不貞腐れたような顔をして頷き、玄関の中に入って行った。 「挨拶は後にして、我々も入ろうか」  良孝の後姿を見て悲し気な顔をしていた良子さんの肩に親父さんが手をかけた。  畳の部屋に通された鷹人と俺は、テーブルを挟んで親父さん達と向かい合うように座った。 良孝は良子さんの後ろに胡坐をかいて座り、不機嫌そうな顔のまま、上目遣いで俺のことを睨んでいた。 「お久しぶりです、良子さん」  鷹人がそう言って頭を下げた。俺も失礼にならないようにと思い、鷹人の隣でお辞儀をした。 「良く来てくれたわね。鷹人さん」  良子さんが両手を出して、鷹人と握手をした。 「瞬さんも、忙しいのにありがとう、嬉しいわ」  良子さんがそう言うと、不機嫌そうだった良孝の顔が戸惑ったような表情に変わった。 「こちらこそ、ありがとうございます。良子さんにまたお会い出来て嬉しいです」  俺は差し出された良子さんの右手を両手で包み込んでそう答えた。 「ねぇ、母さん、瞬さんって――」  そう言った良孝には、さっきまでの不機嫌そうな雰囲気が微塵もなかった。 「良孝、まずは挨拶でしょ」  小さい子を諭すような言い方で良子さんが良孝を嗜めた。その時、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。 「ただいまー! ねぇ、鷹人兄さん来てるの?」  元気な声に続いて、バタバタと廊下を走る足音が聞こえてきた。 「あらあら、ゴメンなさい。落ち着きのない子で……。お帰り、美弥子。もういらしているわよ」  良子さんがそう言いながら親父さんの顔を見て微笑んだ。 「初めまして。美弥子です! お世話になりまーす」  良子さんが開けた襖の間から顔を覗かせたのは、ジャージ姿の笑顔が可愛い女の子だった。 「美弥子、ちゃんと座ってからご挨拶よ」 「わかってる! 手を洗って、着替えてからまた来ますね。今日は部活があったもので、遅くなりました」  美弥子ちゃんが鷹人と俺を見てから頭をペコリと下げた。  「あれあれ? え、もしかして、シュン?」  顔を上げた美弥子ちゃんがもう一度俺を見てそう呟いた。 「のわけないか……」  美弥子ちゃんが首を傾げながら部屋を出て行った。  美弥子ちゃんを見ていた視線を正面に戻すと、良孝が目をキラキラさせながら俺を見ていることがわかった。

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