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夏休み 7

「ごめんなさいね。後でちゃんとご挨拶させますから」  良子さんが親父さんの横に座りながら言った。 「美弥子ちゃんって、元気で可愛いですね」  鷹人がそう言って嬉しそうに笑った。俺はそんな鷹人にちょっぴりヤキモキする。俺って心が狭いなぁ――。  美弥子ちゃんが着替えを済ませて部屋に戻ってくると、新しい家族の顔合わせが始まった。  鷹人の親父さんと良子さんが簡単に自己紹介をした後、鷹人、良孝、美弥子ちゃんの3人が続いた。  美弥子ちゃんはこの部屋に入ってきた時の印象のまま、明るくて元気な感じ。そして、どうなることかと心配していた良孝も、ごく普通の若者のようなので一安心していた。  美弥子ちゃんが話し終わると、良子さんは俺と鷹人を見ながら、素敵な息子が増えてとても嬉しいと言ってくれた。 まだ、良孝と美弥子ちゃんには言えないけれど、それでも、俺も本当の家族として迎え入れてもらえたような気がして嬉しかった。  家族の話が一通り終わると、親父さんが俺のことを、鷹人の仕事の知り合いで、親父さんと良子さんが東京に行った時にとてもお世話になった人だと、良孝と美弥子ちゃんに紹介してくれた。 「お世話になったのは僕のほうです。だから、どうしても良子さんと渡辺さんのお父様にお会いしてお礼が言いたかったんです。本当にありがとうございました」 「ううん。私が会いたくて来てもらったのに、嫌な思いをさせてしまってゴメンなさいね」  良子さんがそう言って、良孝にも頭を下げるように言った。 俺は良子さんと親父さんの優しさを感じ、思わず涙腺が緩みそうになってしまった。 鷹人は俺の気持ちに気付いていたのか、気づかうような視線を送ってくれていた。  そして、俺の紹介が終わりかけた頃、それまで大人しくしていた良孝がソワソワしたように話に口を挟んできた。 「所で……澤井さんって、サーベルのシュンさんですよね?」  身を乗り出しながら良孝が言った。やっと言えたって感じで良孝が満面の笑みを浮かべながら俺を見ている。  やっぱりバレルよね……そう思いながら俺が答えようとすると、鷹人が先に口を開いた。 「実はそうなんだけどね。良孝と美弥子に、お願いがあるんだ。聞いてくれるかな?」  鷹人の言葉に、良孝と美弥子ちゃんが「はい」と頷いた。 「俺達がこっちに居る間、シュンがここに居ること友達とかに黙っててくれるかな?」  鷹人が俺の肩に手を置いてそう言った。鷹人に触れられた瞬間、胸がドキドキしてきて体中が変な感じになった。  朝、中途半端に盛り上がってたからなぁ。でも、こんな時にまで鷹人に欲情するなんて、俺、かなり欲求不満だよな。  真面目な話をしている鷹人の横で、俺は思わず赤面しながら反省していた。

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