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夏休み 8

「うん、もちろん、言わないよ! シュンさんに迷惑かけたらいけないものね」  美弥子ちゃんが元気に答えた。 「ありがとう、美弥子ちゃん」  俺がそう答えると、良孝が美弥子ちゃんを押し退けるようにしながら顔を突き出した。 「俺だって、絶対誰にも言わないです。て言うか、シュンさん、会えてメチャメチャ嬉しいです! 俺、サーベルの大ファンなんです」  良孝が目をキラキラさせながら立ち上がり、サチがギターを弾いている時の格好を真似た。 「ちょっと、良孝。落ち着いてちょうだい」  良子さんが苦笑いしながら良孝の背中を軽く叩いた。 「前に良子さんから聞いていたよ。君がサチみたいなギタリストになりたいって言ってるって」  俺がそう言うと、良孝がガッツポーズしながら「うわ、マジヤバイ……」と呟いた。 「そうなんです、いつか俺もバンドで飯が食えるようになりたいと思ってて――」  その後、良孝はしばらくの間、音楽に対する熱い思いを語っていた。俺は自分が若かった頃を思い出し、懐かしいような照れくさいような気持ちで良孝の話を聞いていた。  それから、最近のバンドの話や楽器の話になり、俺も思わず話に熱が入ってしまった。  気がつくと、いつの間にか良子さんと美弥子ちゃんは夕食の買い物に出かけたようで、親父さんと鷹人は俺達の隣で何か話し込んでいるようだった。 「鷹人、少し休んできたらどうだ?」  話が一段落したところで、親父さんの声が聞こえた。 「え、あぁ、ありがとう、そうするよ」  鷹人が俺の肩をポンポンと叩きながら答えた。 「瞬も行く? まだ話をしていても良いけど……」  その声に見上げると、鷹人の表情が少し固いことに気付いた。 「夕食までゆっくりしてきなさい。瞬君もずっと忙しかったんだろうから」  親父さんが俺に柔らかな笑顔を向けながらそう言った後、一瞬、鷹人の方に視線を移し、すぐに俺を見た。 「あ、はい、そうしようかな」  俺が答えると鷹人の表情が柔らかくなった。しばらく鷹人と二人きりで居られるかもしれない――俺も思わず笑顔になっていた。 「それじゃ、また後で」 「はい」  まだ話したりなそうな良孝を残し、俺は荷物を持って立ち上がると鷹人と一緒に親父さんの後に付いて行った。  2階は階段の先に廊下があって両脇に部屋がある感じの作りだった。片側には、「MIYAKO」と書いてある部屋と「必ずノックしろ」と雑に書いてある紙の貼ってある(良孝の部屋だろう)部屋。反対側にはトイレと納戸、それから来客用の部屋があった。 「それじゃあ、夕食の頃に呼びに来るから」  親父さんがそう言うと、鷹人が小さく頭を下げた。 「ありがとう、父さん」 「ありがとうございます」  俺がそう言うと、親父さんが「良孝の話を聞いてくれてありがとな」と笑った。 「あ、そうだ、鍵はかけておいた方が良いかも知れないな。良孝は遠慮がないから」  親父さんが少し照れたようにそう言ってから階段を下りて行った。

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