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夏休み 12

「あ、座布団、どうぞ……」  俺が部屋の中を眺めていると、良孝が「狭くてすみません……」と小さな声で言いながら俺の正面に座った。 「さて、話って?」  俺がそう聞くと、良孝が姿勢を正した後、両手を膝の前についたかと思うと突然バッと頭を下げた。 「俺、大学出たら、東京に行きたいんだ」 「……え?」   「マジでバンドやりたいんだ。だから……もしシュンさんの力が借りられたら……」  頭を下げたまま良孝がそう言った。正直こういうのってとても困るんだ――。 「ちょっと待て。俺は良孝君のやってる音楽も聞いたことが無いんだぜ。急にそう言われても――」  良孝の気持ちは良くわかる。ただの素人が自分達の音楽をたくさんの人に伝えたいと思っても、その熱意を伝えるのはなかなか難しい。今は動画を撮って配信するってやり方もあるから、俺が若い頃よりも手段は多いと思うけれど……。まぁ、それよりも『有名バンドの誰かが良いと言った……』って一言があれば、夢への道は近くなるだろう。  でも、運よくCDデビューしたとしても、実力の無いバンドは長続きしないものだ。 もし、紹介する立場になるとしたら、他のバンド以上に厳しい目で見てしまうだろう。身内だからって言うのは一番やりずらい。 「今度、俺達のデモテープを送ります。それを聴いてもらってからでいいですから……。でも、とにかく、東京に行って……」  良孝が顔を上げ、真剣な眼差しを俺に向けた。  本気なのはよくわかる。だけど――。 「あのね、良孝君。東京に来たからって夢が叶うわけじゃないんだ。音楽を聴きたい人はどこにだって居るんだよ。こっちでたくさんの人に聴いてもらって、認められて、それから全国制覇っていうやり方もあるし、ここに居たってたくさんの人に聴いてもらう手段はいろいろあるだろ? デモテープを送ってもらっても良いけど、特別扱いは無いからな」  それからしばらく、俺は説教じみた話をしてしまった。自分でも年を取ったのかな? って思いながら――。 「……わかりました、俺、頑張ります……。いつか、有名になって、サーベルと一緒に音楽やりたいです」  俺の説教を聞いて不機嫌になってしまうかと思われた良孝は、意外にも真剣な顔をしたままそう言って、深々と頭を下げた。  夢を追って頑張っている姿が懐かしくもあったし、とても眩しかった。 「わかってくれたら良いよ。待ってるから頑張れよ」 「はい……!」  良孝は顔を上げ、熱い視線を向けたまま頷いた。   「それから……ちょっと待ってて」  特別扱いはしない……とか言ったものの、良孝の素直な姿につい心が動かされてしまった。  俺はサッと立ち上がり、良孝の部屋を出た。そして鷹人が眠っている部屋に戻ると、ベッドの横に置いておいたスマホをとって、電話をかけながら良孝の部屋に戻った。

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