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夏休み 13
「あ、もしもし? 俺。ちょっと話して欲しい相手が居るんだけどさ、今、大丈夫? ゴメン、わかったって」
電話の相手の答えにちょっとイラッとしつつ、相手からの電話を待つことにした。
『今、キスしてた所だから少し待て……』って――。
俺にしかそういうことハッキリ言えないからって……っていうか、そんな時電話出るなよ。
「あの……」
心配そうな顔をしながら良孝が俺を見ていることがわかり、俺は慌てて笑顔を向けた。
「今、良孝君が憧れている人から電話が来るから。話したいことあったらまとめておけよ」
俺がそう言ったら、良孝が急にソワソワし始めた。
「え……マジですか? ってことは、サチさん? わ、どうしよ……ヤバイ、緊張して何話して良いのかわかんない」
そう言いながらオロオロしている良孝が、やけに可愛らしく思えた。
十分後、俺のスマホに電話がかかってきた。その途端、楽譜と雑誌を目の前に置いて、緊張したような顔をしていた良孝が、ピクッと体を固くした。
「あ、俺。ありがとな。え、あぁ、渡辺君の弟だよ。お前のすごいファンなんだよ。そうそう、少し話してやってくれよ。うん、そう。よろしくな」
俺はスマホを良孝に差し出した。すると良孝はカチカチになったまま俺からスマホを受け取り、耳に当てた。
「瞬? あれ、下に行ったのかな……」
良孝がサチと電話を始めてしばらくすると、鷹人が俺を探している声が聞こえてきた。
「……ここに居るよ」
良孝の部屋のドアを開けて廊下に顔を覗かせると、鷹人が一歩下がってからドアの貼り紙を確認した。
「……ビックリしたよ……部屋に居ないから」
鷹人は良孝の存在を忘れたかのように、俺の体に腕を回し抱きしめた。
「あ、あのさ……」
慌てて良孝の方を振り返ると、鷹人の腕にキュッと力が入った。俺は鷹人の行動に1人で動揺していた。でも、幸いにも良孝は、床に置いた楽譜を見つめながらサチと曲について話をしている真っ最中だった。
「何してたの?」
俺を抱きしめていた腕を外し、目を覗き込みながら鷹人が聞いてきた。
「良孝君がプロになりたいって言っててさ。その話に少し付き合ってた。今はサチとギターの話をしてるよ」
鷹人の目を見つめ返しながらそう言うと、鷹人は俺の視線から目をそらし「そっか……」と呟いた。
「もうすぐ話が終わると思うから、ちょっと待って」
俺がそう言うと、鷹人が少しだけ不満そうな顔をした。
「うん……」
鷹人と2人でいる時間を少しでも長くしたいと思って、鷹人が寝ているうちに要件をすませてしまおうと思ったけど、鷹人は俺が1人で良孝の部屋に来たことが嫌だったのかも……。
俺は鷹人の両手をギュッと握りながら頭を下げた。
「ゴメンな、勝手に良孝のとこ来ちゃって」
「……えっと……いや」
鷹人が困ったような顔をしながら頭をかいた。
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