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夏休み 16
良子さんの手料理はどれも美味しくて、お腹も心もいっぱいって感じだった。
アルコールも入ったせいか、フワフワ気持ちよくて、良子さんや親父さん、良孝に美弥子ちゃん、そして鷹人……皆に感謝したい気持ちだ。
食事が終わると、良孝と美弥子ちゃんは部屋に戻っていった。俺たちは残って酒を飲みながら4人でいろいろな話をした。
特に良子さんのお店に来るお客さんの話が面白くて、久しぶりに笑い過ぎてい腹筋が痛くなってしまった。さすが飲み屋の女将さんだな、話をするのも人の心を掴むのもとても上手い。
ライブのトークの時にネタとして使わせてもらおうかな……俺は酔った頭でそんなことを考えていた。
しばらくすると、親父さんがウトウトし始めてしまったので、10時半過ぎには部屋に戻ることになった。
それから順番に風呂に入って、俺の後に入った鷹人が部屋に戻ったのは12時近かった。みんなで話をするのも楽しかったけれど、思ったよりも早く2人きりになれたことはホントに嬉しかった。
慣れない1日を送って疲れていたはずなのに、目がさえていてまだ眠くなかったので、ベッドに転がり、のんびりテレビを見ていると――。
「鷹人兄さん、まだ起きてる?」
ドアをノックするが聞こえた後、美弥子ちゃんの声がした。
「あぁ、起きてるよ」
鷹人がそう言いながら立ち上がり、ドアの方に行った。俺はベッドから起きて、ソファーに座りなおした。
「夜中にごめんね。あの……ちょっとだけ良い?」
ドアの向うから遠慮がちな声が聞こえてきた。
「おう、良いよ。どうぞ」
鷹人がドアを開けると、美弥子ちゃんが「ありがとう」と言いながら部屋に入ってきて、俺の顔を見てペコリと頭を下げた。
「お邪魔します。シュンさん」
「もしかして、俺は出てた方が良いかな?」
ずっと俺が居たせいで、兄妹の会話が出来なかったんじゃないだろうかと、少し気になっていたのだ。
「ううん。シュンさんも居てくれたほうが嬉しいな」
「そう?」
俺がそう答えると、美弥子ちゃんが満面の笑みを浮かべながら俺と鷹人の顔を見比べていた。
「鷹人兄さん、シュンさんって本当にステキだね」
ソファーに向かい合うように座った途端、美弥子ちゃんが嬉しそうにそう言った。面と向かってそう言われたことが照れくさくて、俺は思わず俯いた。
「そうなんだよ、俺の自慢の友達なんだ。年は離れてるけど、あんまり年の差を感じないしね」
鷹人がまだ少し酔いの残ったような喋り方で答えた。
「それって、俺が大人じゃないってこと?」
笑いながら俺がそう言うと、鷹人が慌てたように首を振った。
「違うって……」
「兄さん、シュンさんには頭が上がらなそうだね」
「まぁ、そうかもなー」
美弥子ちゃんの言葉に、俺と鷹人は顔を見合わせて笑ってしまった。
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