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あいつがやって来た! 1
「お邪魔します!」
宣言通り、あいつがやって来た……。
「やぁ、よく来たね」
鷹人が笑顔で、出迎えている。
俺だって大人だ、普段から人に会う機会も多いし、何より、人前で歌うことが商売だ。どんな時でも笑える心の強さを持っているさ!
「あ、瞬さんもいらしてたんですね」
いや、「いらしてた」わけじゃなくて、一緒に住んでいるんだよ……って、ここは鷹人の仕事用のマンションだから、この部屋で一緒に住んでいるのではないけど――。
「うん、まぁ、今日は仕事が休みだったからね。あ、サチは仕事があるから後から来るよ」
俺がそう答えると、彼の目がキラッと輝いた。わかってるよ、君はサチに憧れているんだものな。
「すみません……でも、なんか良いですね、有名人とお忍びで会うみたいな感じ……ちょっと優越感って言うかなんて言うか……」
そう、彼には悪気はない。そんなことわかっている。
でも、どうしてこのタイミングなんだ?
今日は仕事が休みだから、ゆっくりしながら、鷹人におもいきり甘えようと思っていたんだ。休みがわかった時から、ずっと楽しみにしていたのに、突然予定が変わってしまって…。
まぁ……鷹人は「無理に会わなくても良いよ」って言ってくれたのに、良い顔しようとしてしまったのは自分なんだけどさ――。
今さら何言ってるんだ、って感じだよな――。
俺は彼に笑顔を向けながら、心の中で呟いた。
「まぁ、お忍びで会うっていうのとは……ちょっとニュアンスが違うけどね」
俺がそう言うと、彼は頭をかきながら「そうですよね」と笑った。
鷹人の家族は俺にとっても大切な家族だ。たまたま俺の休みの日に遊びに来てしまっただけなんだから――。
不満を顔に出さないように気を付けないと――心の中で葛藤を繰り返しながら、俺は目の
青年に笑顔を向けた。
「えっと……何か……照れちゃいますよ、瞬さんに見つめられると……」
目の前の青年が、頬を染めながら鷹人に救いを求めるような視線を向けた。
見つめているわけじゃないんだけど……苦笑しながら俺は鷹人を見上げた。鷹人は俺の微妙な心の動きがわかっているのか、俺の背中をポンポンと叩きながら笑顔を向けた。
「瞬は……あ、瞬さんは見つめるのが癖なんだよ。くれぐれも勘違いしないようにな」
鷹人が笑いながら言った。
「……何言ってるんだよ、鷹人」
「あはは。ちょっと予防線」
鷹人が笑いながらサラッと言った。
「……予防線ってどういう意味ですか?」
俺達の様子を、頬を染めたまま眺めていた青年が、戸惑ったように聞いてきた。
「まぁ、気にするなよ」
鷹人がそう言いながら、大きな鞄を持った青年を部屋の中に招き入れた。
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