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あいつがやって来た! 3

「会ってやっても良いよ」  昨日の夜、アルバムの打合せが終わった後に、サチとしばらく雑談をしていた。 その時、たまたま話の流れで良孝が鷹人に会いに来ることをサチに話してしまった。すると、サチが突然、そう言い出したのだ。  良孝はサチの大ファンだから、いつか機会があれば本人に会せてあげたいとは思っていたけれど―――。 良孝が、俺と鷹人の関係を知らない状態で、おしゃべりのサチに会せるのは不安でしかない。  だから―― 「今回は良いって」  俺はあわててサチの申し出を断った。 「なに遠慮してんだよ、シュン。せっかく俺が会ってやるって言ってんのに。俺がそう思うなんて、珍しいことなんだぜ」  サチの、『優しさ』なのか『俺様』なのかわからないような態度に、俺は思わず苦笑いを返していた。 「でもさ、俺は休みだけど、サチはインタビューとか入ってただろ? 無理するなよ」  俺がそう言うと、サチがニヤリと笑った後、俺の頭を押さえ、勢いよくデコピンしてきた。 「イッテーな!」 「シュン……お前、俺が良孝に何か余計なことでも言うと思ってるだろ?」  デコピンされて痛む額を押さえながら、上目遣いで睨みつけると、サチは俺の様子を見てニヤニヤし始めた。  半笑いで見下ろされているし、考えていること読まれているし、俺は妙な敗北感を覚え、眉間に皺を寄せたまま、思わず口を尖らせてしまった。 「なんだよー、シュンちゃんったら。カワイイ顔したって、誤魔化せないでちゅよー」  サチは大きな手で俺の頭をグリグリと撫でた。俺は子供じゃないっつーの! 「可愛い顔したつもりなんてないし――。いや、それよりサチ、俺んとこの親戚に気を使わなくて良いから、ちゃんと仕事をしてくれってこと。だから、またの機会で良いよ。ありがとな」  これ以上からかわれないようにと思い、俺はそう言って話を切り上げようとした。 「大丈夫だから、俺に任せろよ。ただ、夕方、別の仕事が入ってるから時間は限られているんだ。まぁ、だから、お前が心配するような余計な話をする時間はないと思うぜ」  サチがそう言ってニヤリと笑った。  さすが長年一緒に仕事しているだけのことはある。俺が心配していることを、ちゃんと見抜いているんだな。って、だから余計不安になるんだよ、その意味深な笑顔と言い方――。 だけどここで言い返すと、話がこじれてしまいそうだ……。 「わかった、迷惑じゃないなら、お願いしようかな。あいつ、すごく喜んでくれると思うから。ありがとう」  とにかくサチの言葉を信じるしかないか……良孝の喜ぶ顔も見たいし――。  その時、自分の考えている事に少し驚いていた。きっと、若い頃の自分だったら、「迷惑だから会うのはやめてくれ」って怒っていただろうな――。  俺はずっと、他人が自分の世界に入ってこようとする感じがすごく苦手だった。だから、いつも人との間に壁を作って自分を守っていた。鷹人と一緒になってから、自分でもずいぶん変わったと思う。もちろん、良い意味で――だ。 「おう、素直にそう言えば良いんだよ。じゃあ、明日、3時頃なら行けると思うから」  サチがそう言って、俺の頭をポンポンと叩いた。その子ども扱い的な態度は、今でもちょっと苦手だぞ?! 「了解。明日は鷹人の仕事のマンションで会うんだけど、来てもらっても良いかな?」  俺は頭に乗せられたサチの手を払いのけながら答えた。    「構わないよ。お前と俺が外で会うのは大変だからな」 「あぁ、ありがとう。サチはホントに気がきくよな」 「当たり前だろが。俺が『さりげない気配りの出来る男』って呼ばれてるのを知らないな」 「あはは」  それは初めて聞いたよ、とは言えず、俺は笑ってごまかしてしまった。 『さりげない気配り』とは違うような気がするけどな。

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