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あいつがやって来た! 8
鷹人が仕事部屋に行くのを見送ってから、俺は両手にカップを持ち、居間に向かった。
「あのさ、鷹人は仕事を進めたいから、しばらく席をはずさせてもらうって。2人でゆっくり音楽の話しててよ。俺も向こうで曲作りしてこようかと思うんだ――」
コーヒーカップをサチと良孝の前に置きながら言った。普通の顔していたつもりだったけど、これからしばらく鷹人と2人でいられると思うと、笑顔をおさえきれなかったようだ……。
「すみません、話しこんじゃって……」
良孝は恐縮したようにそう言ったけれど、サチは、鷹人を思ってフニャけた顔をしている俺を見て二ヤッと笑った。
「了解。いい曲作ってくれよ……。そうだな、甘くてちょっとエロいラブソングが良いかな」
「おう、任せろよ」
俺はサチの視線を避けるようにしながら、鷹人が待っている仕事部屋に向かった。
「たかとー」
仕事部屋のドアを後ろ手に閉めてから俺は、椅子に座って机に向かっている鷹人の背中に抱きついた。
「わ……」
声を上げそうになった鷹人の口に、軽く手を当ててから俺はシーッと呟いた。
「ねぇ、キスしたい」
俺は鷹人の椅子をクルッとまわし、膝の上に座って鷹人におねだりしてみた。
「わかったよ」
キスしやすいように鷹人の方を向いて座りなおすと、鷹人は俺の頬を両手で包み込んで唇を重ねてくれた。俺は鷹人の首の後ろに両腕を回して抱きついた。
愛しくて幸せな時間だ――。
「ん……」
昨日の夜もキスしたけれど、すごく久しぶりにしたような気がして気持ちが上がってきた。
心配事が1つ減ったからなのかも知れないな――そう思った途端、さっきサチを目の前にして、緊張しまくっていた良孝を思い出して、クスっと笑ってしまった。
「キスの途中でなに笑ってるのさ?」
鷹人が唇を離して俺の目を覗きこんだ。
「ゴメン、なんだかホッとしてさ」
俺は話をするのがもどかしく思えたので、笑った理由を言わずにすませてしまった。
「あぁ、そうだね。ホントに良かっ――」
俺は話を続けようとした鷹人の唇に、もう一度唇を重ねた。
「キスの先がしたいよ。でも今日は無理だな……」
長いキスの後、俺は鷹人の耳元で囁いた。
「瞬が声を我慢すれば大丈夫かもしれないよ……良孝は居間のソファーベッドを使ってもらう予定だし――」
そんな事言われたら体が熱くなる――って言うか、一緒に住んでいること良孝に話したんだから、むこうのマンションに2人で帰っても良いんじゃないか?
そうだよ、鷹人に提案してみよう……そう思っていたら、鷹人が急に俺の服をめくり、素肌に手をすべらせた。
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