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あいつがやって来た! 10
「サチさんが迷惑でなければ……」
鷹人が困惑しきった声でそこまで言うと、サチが話に割って入った。サチは何かやりたいことが決まると、すぐ動きたくなるんだよな――。良い所でもあり、困るところでもある。
「俺は全然大丈夫。俺さ、良孝のこと気に入っちゃったんだよね。ギターがどのくらい出来るか見てみたいし、良いギターを教えてやりたいんだ」
サチの話を聞いて、これからしばらく鷹人と2人きりになれるかも知れない、と思った俺の胸は少しずつ高鳴っていた――。
「なんか……突然だから、悪いんじゃないかとも思うんですけど……」
良孝は戸惑ったように、そう言って頭をかいた。
「サチが良いって言ってるんだから遠慮しなくていいと思うよ。良孝君は今日、ここに泊まるんでしょ? 戻って来れるかな……どこの楽器屋まで行くんだよ?」
体の熱がある程度おさまった俺は、何もなかったような顔をしてみんなの話に加わった。
「あの、今日は……」
「良孝は先輩のアパートに泊まるんだってさ。それがさ、住所聞いたら、良孝の先輩のアパートって剛のマンションからそんなに遠くないんだよ。だから、楽器屋に行ってから俺が送り届けてやるよ。あ、でもまだここで何か用事とかあるの?」
「いえ、家族から預かってきた物を渡したら、先輩の所に行こうと思っていたので、大丈夫です」
おい、良考。そういう話は事前にしておいてくれよ、ここに泊まっていくものだとばかり思ってたじゃないか――。
「じゃあ、決まり。頼まれたもの渡したら出発しようぜ」
サチと良孝は、唖然としている俺達を残し、そのまま居間に戻ってしまった。
「サチの奴……。なんか、ゴメン」
「いや、別に大丈夫だけど、こちらこそゴメンっていうか、申し訳ない感じだね……。良孝も言っといてくれたらよかったのになぁ」
二人で顔を見合わせていると、居間の方からサチが俺達を呼んでいる声がした。
居間に行くと、良孝が大きな鞄から紙袋を出しているところだった。
「これ、母さんから預かって来たんだ。俺には開けるなって言ってたから……俺が見たらダメだってことかな」
良孝が、最初に軽そうな袋を鷹人に差し出しながら言った。
良孝の言葉を聞いたサチが俺を見て何か言いたげな顔をしたけれど、妙な事を言われるとまずいと思い、俺はサッと目をそらした。
「それから、これは母さんが作った煮物とかお惣菜。あとはレトルトのカレーと……なんだか色々入ってるよ。はい、兄さん」
良孝が今度はずっしりと重そうなトートバッグを鷹人に向かって差し出した。
「おう、ありがとう」
どうやら、良孝の荷物の半分以上が家からのお土産だったようで、家族から頼まれた物を出すたびに、鞄がどんどん小さくなっていった。
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