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あいつがやって来た! 12
写真を眺めながら、美弥子ちゃんの屈託のない笑顔を思い出していると、鷹人がキッチンから戻ってきて、俺の隣に座った。
「どれどれ?」
「これだよ」
俺は写真立てとカードを鷹人に手渡した。
「おー。こんなの、いつの間に撮ってたんだろう?」
写真を見た後、鷹人はカードを見て、しばらく黙り込んでいた。心配になって覗き込むと、鷹人がカードを持ったままフリーズしていた。
「鷹人? どうしたの?」
「すごく、嬉しくてさ……感動してる」
美弥子ちゃんへのお礼のメールには「鷹人が涙を流して喜んでいたよ」って一文を入れておこうかな――。美弥子ちゃん本当にありがとう。
「そう言えば、もう一つのは何だろう?」
鷹人が写真立てをテレビの横に並べてから俺を見て首を傾げた。鷹人のその仕草、可愛らしくて俺は好きだな――。
「あぁ、あけてみよう」
鷹人がソファーに戻って、紙袋から綺麗な花柄の紙包みを取り出し、丁寧にあけ始めた。
「見てよ、瞬」
「わぉ……」
包みの中には、白地に小さな黒い模様がちりばめられているパジャマが2着入っていた。よく見てみると、黒い模様はそれぞれ犬と猫で、犬はLサイズ、猫はMサイズのパジャマだった。
「かわいいパジャマだね」
そう言いながら鷹人の顔を見ると、鷹人は困ったような顔を向けていた。
「まぁ……なんて言うか、照れくさい感じだね」
新婚の夫婦にペアパジャマを贈るような気分だったのかな――良子さんが店でこのパジャマを選らんでいる姿を思い浮かべて、微笑ましいようなくすぐったいような気持ちになった。
「良子さん、かわいいね」
「うん……そうだね」
それから俺達はペアのパジャマを着て写真を撮った。鷹人は恥ずかしいからやめようって言ったけど、俺はお礼の気持ちを伝えたくて、良子さんのスマホに2人の写真を送りたかったのだ。
「『良孝君からお土産を受け取りました。たくさんの愛をありがとうございます。ペアパジャマ、早速着てみましたよ♪』 こんな感じでいいかな?」
パジャマを着たままソファーでスマホの操作をしていると、鷹人がソファーの隣に座って俺の頬にキスをした。
「うん、良いんじゃない」
鷹人の熱を感じた俺は急いでメールを送信すると、スマホをテーブルに置き、鷹人にギュッと抱きついた。
「さぁ、鷹人くん。やろうではないか」
「……」
鷹人がクスクス笑ってから「了解」と返事をした。
「ムードなさ過ぎてゴメンな」
「別に……良いよ」
ソファーから立ち上がった鷹人は体の向きをかえると、俺をヒョイと抱きあげた。
「さて、2人の部屋でゆっくりしようか」
「ゆっくりするの?」
「じゃあ、じっくりするのはどう?」
「うん。それがいい」
2人顔を見合わせて笑った。
バンドのメンバーも、鷹人の家族も、みんな俺達を温かく見守ってくれている。次は俺の家族だな――。
おわり
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