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第3話

 あれから数日後、そいつは突然やってきた。 「あなたですよね、貴春先輩のお兄さんって」 「はぁ?」  振り向いた先には、いつぞや貴春に頭を踏みにじられていた男が立っていた。人を覚えるのが苦手な俺が、特徴的な大きな目が印象的で珍しく覚えていた。 「ああ、あん時の」  笑いを含めて言えば、そいつの眉が跳ね上がる。 「どうしていつも、貴春先輩にあんな酷いことをさせるんですか!? あなた、本当に兄弟ですか!?」 「何言ってんだ、お前」 「貴春先輩は優しい人です! あなたさえいなければ、本当はあんなことしない人なんです!」 「頭わいてんの?」 「全部、あなたのせいです! 全部全部、あなたさえ…いなければ……ッ」 「あ~なに、分かった。お前アレか、俺に嫉妬してんのか」 「なッ!?」  たまぁ~にだが、兄である俺に妙な嫉妬を向けてくる奴がいた。今までは全部女だったが、男でも同じように嫉妬するんだなと妙に感心してしまう。そうして、ムクムクとわいてくる嗜虐心と優越感。  多分俺は、こいつが今欲しいと思っているものを全部、持っている。 「そうだなぁ、俺は毎日貴春と同じ家で暮らして、手料理作ってもらって、一緒に風呂に入って全身綺麗に洗ってもらって、至れり尽くせりだもんなぁ~。ただの穴としか思われてないお前らからしたら、そりゃあ~羨ましい立場だよな、兄弟ってやつは」  目のデカい男が、顔を真っ赤にした。ふっ、ざまぁ…と思って鼻で笑おうとしたら。 「……ぃ、く…に」 「あ?」 「抱いて…もらえないくせにッ」 「……はぁ?」 「あなたは! 貴春先輩に一生抱いて貰えないじゃないか! 兄弟だからっ、一生貴春先輩のあの熱を知らずに死ぬんだ! ただの一度きりだって、熱を共有できた僕らの方が余程幸せだ!」 「お前…兄弟と何比較してんの?」 「かわいそうなやつ。あなたを抱きたいなんて思う人、世界中さがしたってきっと見つからない。あの貴春先輩だって、きっと兄弟じゃなければあなたなんか眼中にも無い!」  そのままプイと顔を背け、背を向ける男に呆気にとられ言葉が出ない。は? 兄弟でなんでセックスしたかどうかを比較をされなきゃなんねぇんだよ。俺が貴春に抱かれたことがなかったら、不幸だっていうのか? つか何で俺が男に需要ないといけねぇんだよ! 需要あるかもしんねぇし!?  はぁ~!? 「ウッゼぇええ! ムカつくぅぅぅうう!」  じゃあなんだよ、俺も貴春と一発ヤれば、お前らはもう俺に太刀打ち出来ねぇってことか? そういうことだよな? なぁ!! 「やってやろうじゃねぇかよ、クソが」  貴春は、俺の言うことなら何でもやってくれるはずだ。ちょっと一発ヤろうぜって誘えば、大して高くない貞操観念の持ち主だ、相手が兄であろうが適当に相手してくれるだろう。 「見てろよ男女のクソカマが……今度は俺がテメェの泣きっ面を踏んでやるからなぁ」  絶対的な勝利を確信して、俺はどうやってアイツを嬲ってやろうか考えていた。これからの自分の行動が、どんな眠れる獅子を起こすとも、知らず。

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