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第4話
「貴春っ!」
玄関のドアが開いた瞬間、帰ってきた貴春に飛びついた。
「どうした、千秋ちゃん」
胸板でしっかりと俺を受け止めた貴春の体は、俺が勢いよく飛びついてもビクともしない。いつものように、俺だけに見せる笑顔を浮かべて何を言うかジッと待っている。
「俺とセックスしようぜ、貴春」
だがさすがの貴春も、このセリフには表情を硬くした。
「……何言ってんの?」
「いいだろ別に、減るもんでもねぇしさ。お前男もイケんだろ? 俺とヤんのだって変わんねぇって」
なぁ? と貴春の顔を見上げれば、その眉間には深い皺が寄っている。
「無理に決まってるでしょ。兄弟で何言ってんの」
「お前にそんなマトモな貞操観念あったっけぇ?」
「千秋ちゃん」
「大丈夫だって! 何なら俺の顔に袋被せてやってもいいし。顔さえ見なけりゃその辺の男とヤんのと一緒だろ?」
「本気で意味わかんないんだけど。急になんなの? 千秋ちゃん、俺のことが好きでセックスしたい訳じゃないよね」
「お前こそ兄弟で何言ってんだよ」
なんで俺がお前を好きなるんだよ、思わず笑えば貴春の顔色が更に悪くなる。
「そんな深い理由なんていらねぇじゃん。あのカマ野郎とヤッたみたいにさ、俺とも一発抜く程度の…」
「やらない」
珍しく、貴春が語気を強めた。一瞬で胸倉を掴まれる。
「な…なんだよ」
「千秋ちゃんとは、やらない。絶対に。もうこの話は終わり、二度とするな」
「なッ、貴春!」
俺の胸倉を乱暴に離すと、貴春は自分の部屋へと入り勢いよくドアを閉めてしまった。もう近づくな、と言いたいのだろうが、貴春にこんな態度を取られるのは生まれて初めてで。
「ッだよ! みみっちぃこと言ってんじゃねぇよヤリチンのくせによぉ!」
固く閉ざされたドアを思いっきり蹴る。が、中からはまったく反応がない。余計にムカつく。
「いいよ別に! もうお前なんかに頼まねぇし!」
あの男を悔しがらせるには、まずは貴春と…と思っていたが、ムカついたので趣旨を変更する。
「俺に需要があるかどうか、試してやろうじゃん」
貴春が俺を抱かなかったら、あの男が言ったままになってしまう。男に興味なんてなかったけど、一度経験すると女が抱けなくなるほど癖になる、とも聞いたことがある。
もしも貴春よりもいい男を引っ掻けられれば、別に貴春に抱いて貰う必要はない。男相手でも、処女ってのは高く売れるもんなんだろうか? 男を釣る方法は、実際現場で色々と試してみればいい。
リビングのソファに飛び込むようにして座ると、俺は早速スマホで検索を始めた。あの男も、貴春も、俺をコケにしたことを後悔させてやる。
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