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第6話
「ヒッ」
ベッドに投げられた体を一生懸命に貴春から遠のけるが、這ってやってくる獣のような弟に間合いを詰められ、俺を捕まえるべく腕を伸ばしてくる。
「なにっ、なに! 嫌だ、やめろっ、痛い! あがっ!?」
伸ばされた腕に捕まらぬよう、必死で振り回していた自身の腕は簡単に捕まり、そのまま手加減なしに殴られた。鼻の奥がツンとして、ベッドのシーツが赤く染まる。
あの貴春が…、何をしても俺を優先し、甘やかしてきたあの貴春が…俺を、殴った。流れた鼻血に呆然としていると、背中で両手首をベルトで締めあげられた。
血の繋がった弟が、これから自分に何をしようとしているのかは明白だった。それは自分が先ほど頼み込んだことであるのに、全身がガタガタと震えて止まらない。
「ここまでバカだったなんて、呆れる」
「は…?」
「まさか、他の男に走るとはね…」
ギリ、と貴春が奥歯を噛み締め鳴らす。
「こっちがどれだけ我慢してやってたか知りもしないで…。ただのバカやってればよかったのにねぇ、千秋」
〝ちゃん〟が抜けた名前呼びが、妙に重くのしかかる。
兄貴になんて口のきき方してんだよって、言ってやりたいのにいつもの優しい雰囲気が一ミリもない貴春は、その美貌のせいも相まって恐ろしい怪物に見える。恐ろしすぎて、何も言い返せない。
こうして改めて見てみれば、イケメンだとテンション上がったあのユウの顔さえ、月と鼈だと言える。声優みたいに格好いいと思っていたあの声も、貴春の色気を纏った声に比べれば随分と安っぽく感じてしまう。
それほどまで、貴春を造り上げる全てのものが人間離れした美しさだったのだと、今更痛感する。
「わっ、わっ!」
そんなことをぼうっと考えていたら、呆気なく下半身を丸裸にされてしまった。
「何考えてる? まさかさっきの男のことを考えてる? 余裕だね」
「ちがっ、やだ、やめろ! ひっ!?」
「自分が望んだことだろう? こうして欲しいって、さっき俺に抱き着いてきたのは誰?」
違う。いや、違わないんだけど、全然違う。俺が頼んだのは、こんな恐ろしい男なんかじゃなくて、もっと優しく笑ってて。まさかこんな、俺の大事な部分を潰さん勢いで握り締めてくる男じゃなくて。
唯一自由になっていたはずの足を両方持ち上げられ、とんでもない場所を丸見えにされた。
「やめろやめろやめろぉぉお! ンう"!?」
掴まれた足をジタバタとさせていると突然片足が自由になり…、俺の大事な場所を更に強く握りこまれた。
「あんまり暴れると、ここ、使い物にならないようにするけど」
「ぅあ"ぁ"ああっ! 分かった! 分かったからぁ! 痛いぃ!」
はぁ、はぁ、はぁ、
漸く大事な部分を離してくれたと思ったら、手荒くその下……尻の間にぬるぬるする液体をぶっかけられた。
「仕方ないから、お望み通りの経験をさせてあげる」
「き、貴春…」
「死んだ方がマシだと思うくらい、気持ちよくさせてあげるよ」
「ンっ! んぅぅうっ!!」
いきなり貴春にキスをされ、噛み付くようなものからあっという間に深いものに変わる。そうして唇に意識をやっている隙に、もう一度俺のモノを握り込み、今度はやんわりと愛撫しながら、器用に長い指が尻の入口を掠った。
「あぁっ!」
「簡単には、終わらせないから」
その日はそこからが、永遠かと思うほどに長かった…。
*
*
*
闇に包まれた頭の奥で、粘着質な音が聞こえてくる。
どこから? なにから? どうして? 何の音?
「んっ、う…んっ、ん"っ、あっ、ぁあ"ぁ"、あっ」
ぼんやりする意識が少し戻ってくると、俺の口からはダラダラとだらしなく涎が溢れ、女のような喘ぎ声が、だが出し過ぎたのか掠れた声が漏れていた。
うつ伏せで頭をベッドに押さえつけられ、雌猫のように腰だけを高く上げさせられて。縛られた腕は、数時間たった今でも縛られたままだ。
「もう、色がなくなっちゃったね」
俺の尻の中は、貴春のデカいソレでいっぱいになっていた。俺のイイトコロを早々に見つけた貴春は、意地悪くその近くを掠めながら、指だけでの抽挿を一時間、貴春の舌で嬲られて一時間。計二時間もの間、決定的な刺激を与えてもらえないまま嬲られ続けた。
ほんの一瞬でも前を触ってくれればイけるのに、それさえ禁止され、我慢汁を死ぬほど垂れ流して。
ついに指と舌だけで頭がトんでしまった俺は、初体験のくせに、貴春の剛直を突き入れられたその刺激だけで長い長い絶頂を迎えた。
突っ込まれただけでイってしまった体はガクガクと震え、白目を向いて意識を飛ばす。だがその意識も頬を張られて取り戻すと、容赦のない腰つきで強く揺さぶられた。
何度も何度もその熱で奥を穿たれて、目の前には火花が散って。意識を飛ばしかけると頬を張られ、また意識を戻される。
「あっ、もっ、ヤダぁぁあ、うっうっ、あぁああ、」
「なにがイヤ?」
「もっ、もっ! イきた…くなっ、あっ! ンあぁあっ!」
俺のちんこは馬鹿になってしまったのか、もうずっと透明の液体を垂れ流したままだ。もはや絶頂がどこなのか分からないくらい、ずっと全身が痺れたような快感に襲われており、それは苦痛にすり替わる。
こんなの、拷問と一緒だ。
「ひやぁっ、やぁあ"あ"、きはる、やぇてぇ"え"ぇ!」
「初めて逢った男に、名前なんか呼ばせて……許せるわけがないッ」
「ひぁあ"ッッッ! ッ、っ…ッ!」
クボッ! と酷い音がしたかと思うと、下半身から頭の奥深くへと痛みとも快感ともつかない刺激が鋭く突き抜け、目玉がグルんと回った。
俺は今、何を見ているのか。どこにいて、何をしているのか。そもそも俺は生きているのか。それさえ分からなくなった俺の意識は、ドロドロとしたタール液に溺れるようにして…、間も無く完全にブラックアウトした。
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