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第8話

 あの空気の中ではそのまま大学にいられなくなって、俺は慌てて家に帰った。今までバカにしてきた奴らのあの視線が怖くて、どうしても怖くて。無様にも足が震えて、歩くのもやっとだった。  家に戻って鍵をかけると漸くいつもの自分を取り戻したようで、頭に血が上る。 「なんなんだよ! なんで貴春はっ、俺を無視してあんな奴の腰抱いてんだよ! だいたい!」  大体、俺が脅してたってなんだよ!? 俺が弟を襲ったって、どこから出た話だよ!? 「俺が襲われたんだぞ!? あんなっ、何回も何回もちんこ突っ込まれて! ふざけんなよ!」  手の届く範囲、目につくもの全てをなぎ倒し部屋の中で暴れた。どうせ片づけるのは、帰ってきた貴春なんだから。 「クソッ! クソクソクソクソ!!」  お前がその気なら、俺だって好きにしてやる! 散々部屋をぐちゃぐちゃにした後、俺は財布とスマホだけ手にして部屋を飛び出した。 「えっ、なんで!?」  数日前、俺を抱いてくれる相手を探しに行った店へ出向くと、渋い顔をしたママに入口で追い払われた。 「アンタ、もうウチには来ないでちょうだい」 「は…?」 「ユウくんに何したか、忘れたとは言わせないわよ」 「でもあれはっ!」 「いまこの辺一帯、アンタは出禁になってんのよ。ユウくんは人気があるし、アンタのこと恨んでる子も多いわ。下手にうろついてると、冗談じゃなく輪姦されるわよ。これに懲りたら、もう変な遊び感覚で男漁りをしないことね」 「そんなっ、」 「悪いけど、ウチも揉め事はごめんなの。じゃあね」 「ちょっ!」  目の前で、バタンと扉を閉められ、暫く立ち尽くす。だがそれも、通り過ぎていく中の『あれ、アイツって…』の言葉に体が跳ね上がり、逃げるようにして家まで帰った。  玄関を開けば、片づけられていない、滅茶苦茶になった空間が広がっている。もう時刻も20時を過ぎているというのに、貴春の姿はどこにも見当たらない。だからといって、あんな態度をとった奴に自分から連絡するのも腹立たしい。 「どうせ、明日には帰ってくんだろ!」  ぐぅ~、と腹の虫が鳴ったが、俺には料理というスキルは備わっていない。風呂に入るどころか着替えることさ億劫で、そのままベッドに横になって、子供みたいにふて寝した。そうさ、戻ってくる。たった一日ですら俺から離れることを嫌って、塾や学校の合宿を疎んでいた貴春のことだ。戻ってくるに決まっている。戻らないわけがない。  だが次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。貴春が部屋に帰ってくることはなかった。

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