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第10話

「はは、凄い恰好」  俺を見て笑う貴春。そりゃそうだ、禄に風呂にも入らず、整えられていない固い黒髪はボサボサ。Tシャツはあれから数回変えた程度でヨレヨレだし、下は貴春が帰って来なくなってから一度も洗っていないパジャマのままだ。急いできたせいで、足は片足ずつ別のサンダルを履いている。 「おいで、千秋ちゃん」  呼ばれるままに、俺はふらふらと貴春に近寄った。貴春に手を伸ばし、触れようとすると避けるように一歩下がる。 「きはる…」 「どうだった? 俺のいない生活は。楽しかった?」  そう聞かれて、この一ヶ月を思い出して、俺の瞳から涙が溢れた。 「やだ…ぃやだ…帰ってきてくれよ……貴春、きはるぅッ!」 「そんなに辛かった? 一緒にいるときは、俺に見向きもしなかったくせに? 俺なんて、要らないんじゃない?」 「ヤダァァァア!」  うわぁぁあ、俺は芝生の上に泣き崩れ、貴春の足にしがみついた。奇しくも俺が、あの男の頭を踏みにじらせた場所だった。 「ヤダヤダヤダ、貴春、帰ってこいよ、頼むからぁ!」 「うーん、どうしようかなぁ」 「なんでもするっ、貴春の言うとおりにするから! だからぁ~ッ」 「へぇ、俺の言うこと何でも聞いてくれるの?」 「きくっ、きくからぁ~!」  見上げた先の、貴春の顔がにっこりと笑んで言った。 「じゃあここで、オナニーしてみて」 「え…」 「いままで、俺の足にすがってきた子たちに色んなことさせてきたよね? 今度は、千秋ちゃんの番だよ」 「あ……ぅ…」 「なに、できないの? 千秋ちゃんの俺への想いって、そんなものなのか」  じゃあ俺は、また別の子を選ぼうかな? 「やる! やるからっ、やるからぁ!」  涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった俺を、楽し気に貴春が見下ろしている。見ているのは貴春だけじゃない。いつも俺と一緒に、貴春の遊び相手の無様な姿を傍観していた奴らが集まっていた。  その視線に晒されて、俺は震える手でパジャマの中へと手を滑らせる。 「う…うぅぅ…」  なんで、こんなこと、おれが…。頭の片隅ではそう思うけど、この一ヶ月を思いだすと、酷い震えが全身を襲う。中身は見えないとはいえ、衆人環視の中、ぐちゅぐちゅと音を立てながら硬度を増していく自身に絶望する。  まるで子供の様に泣きじゃくりながら、必死でそこを昂らせる。昂らせながら、俺は無意識にもう片方の手を後ろに回していた。指一本が、簡単に滑り込んだ。 「ひっ、う…あっ、あっう…」 「凄いね、アナニーまで覚えちゃったの?」  バカにしたように鼻で笑われたが、もうどうでも良かった。貴春が家に戻ってきてくれるのなら、恥も外聞っもない。ただひたすら自分が気持ちいと思えるオナニーを、貴春に見せつけてやりたかった。 「そこ、解して何を挿れるつもり? また他の男でも探す? あ、出禁になってるんだっけ」  そう言って笑われた瞬間、頭にカッと血が上る。俺は貴春の股間へと飛びついた。 「あっはっはっはっは!」  だが、飛びついてソレに触れようとした手を貴春に取り上げられる。 「可愛いね、千秋ちゃん。そんなにしてまで俺が欲しいのか」 「貴春…う…ぅ」  取り上げた俺の手を、貴春が躊躇いなく舐め上げ甘噛みをする。その手は、俺の先走りでベトベトなのに。 「参ったな、ここまで堕ちてくれるなんて予想外」 「きはる…きはるっ」 「分かったよ、千秋ちゃん。一緒にお家に帰ろうか」 「うっ、うぅぅううっ、うぅうううう」  貴春の〝帰る〟という言葉に、こんなにも安心を得られるなんて。俺はあまりの嬉しさに、また、子供の様に泣きじゃくった。  まともに歩けなくなった俺は、貴春と共にタクシーで家に戻った。玄関を開ける前からする異臭に貴春が苦笑して、玄関を開けて、ついに頭を押さえた。 「さすが千秋ちゃん。よく一ヶ月でここまで汚したね」 「ぎあるがっ、ひっ、ぎはるが悪いんだぁ!」 「ハイハイ、ちょっと待ってな」  一ヶ月前の優しい貴春が戻ってきた。まだ泣いている俺のボサボサ頭を優しくかき混ぜて、使ってないからあまり汚れていなかった風呂に、俺を押し込んだ。  俺が久しぶりに暖かい風呂を堪能し、小汚い顔を綺麗にしている間、あっという間に貴春がそこらじゅうのゴミを纏めてくれた。ちょうど明日がゴミの日だから、朝までベランダに仮置きするんだとか。  風呂から上がったら、リビングがほとんど元通りになっていた。 「ちょっと今すぐは全部綺麗にできないから、また明日ね。飯も、今日はインスタントで我慢してくれる?」  そう言って振り返った貴春に、俺は風呂から出た全裸のまま飛びついた。 「千秋ちゃん…んっ、ん…」 「ンぅ、ん…んぅ」  噛みつくようなキスをした。しつこく舌で唇をなぞってやれば、貴春の唇が薄っすらと開く。その隙間から舌を滑り込ませると、俺の舌はまるで罠にかかったかのように、貴春の舌に絡めとられた。 「あぅっ、んうっ!」  俺の口端からは飲み下せなかった唾液がダラダラと零れ、勿体ないとでもいうように、キスの合間に貴春がそれを器用になめとっていく。 「あンぅぅううっ!」  ただ、キスを深くされただけなのに、俺のアソコはそれだけでイってしまった。 「俺の知らない間に、随分エロイ体になっちゃったね。誰かに仕込まれた?」 「ちがっ! ちが…」 「うん? 俺以外の誰かを、ここに咥え込んだ?」 「してないっ! きはるっ、きはるだけ…」 「本当に? 確かめてもいい?」  俺の体が、期待に熱を帯びた。  恥ずかしげもなく上を向くソコと、期待にヒクつく後孔。前からの先走りで、まるでいつでも挿れられるように準備したかのように濡れている。  ちゅぷ、と音を立てて貴春の指が一本入った。 「本当だ、キツイね。ここを指で弄りながら、欲しいと思ってくれたの? 他の誰でもなく、弟の俺を欲しいと思ってくれたの?」 「ほしっ、欲しかった…貴春…貴春が欲しいぃ」 「はは、可愛い……可愛いなぁ、千秋ちゃんは」 「あっ、あっ!」 「約束できる? これからも、ここは俺専用。他の男も、女も作っちゃダメ。それが守れるなら、俺が幾らでも相手してあげる。今まで通り、千秋ちゃんの側にいて、全部面倒みてあげる」  この一ヶ月の生活を思い出して、ゾッとして貴春にしがみついた。 「するっ、するから! もう、居なくなんねぇで貴春っ!」  抱き着いた、俺の耳元で貴春が微かに笑った。 「分かったよ。約束ね、千秋ちゃん」

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